2021年1月17日は湾岸戦争開戦30周年記念日です。
湾岸戦争は、米空軍がいわば一つの絶頂期を迎えた戦いであり、一方で今では、「その成功の犠牲者でもある」とも表現されるほど変化を迫られている米空軍の現在を形成した戦いでもあります。
この戦いの一端を、2019年7月の過去記事で振り返ります。
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同盟国の来援に期待する戦い方を学ぶため?
勃発から30年が経過し、新たな資料公開に期待なのか?
2019年7月2日、防衛研究所国際紛争史研究室の小椿整治氏が、「湾岸戦争の航空作戦における連合作戦の実相」とのブリーフィング・メモを同研究所のwebサイト上で発表し、重要度の高い作戦はほとんど米軍が実施し、同盟国の貢献は極めて限定的だと述べつつ、作戦関連資料の開示がほとんど進んでいないと述べ、WW2以来の本格的な連合作戦となった同作戦の最終的評価はまだ時間が必要と述べています
昨年12月に、同じ研究室の柳澤潤氏の「フォークランド戦争における航空優勢」とのメモをご紹介したときは、これは明らかに「尖閣諸島」奪還作戦を意識したものだと解釈し、今日的な意味を類推しつつ取り上げさせていただきました。
実際防衛研究所も、4年かけて行った膨大な「フォークランド紛争研究」を公開しており、なんとなく頭の整理はできました
柳澤氏のメモ紹介記事→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-12-01-1
全12章の大作:「フォークランド戦争史」→http://www.nids.mod.go.jp/publication/falkland/index.html
しかし今回はよくわかりません。冒頭で述べたように、同盟国米国の来援を得て戦う近代航空戦の事例として教訓を抽出せよと無理やり取り組まされた可能性があり、米軍と他の連合国間の戦力差が圧倒的な戦いで、新たな資料開示もないことから、新たな教訓が得られる可能性が低いことを、要求元の防衛省や航空自衛隊に説明するための「メモ」なのかもしれません
とは言え、小椿氏が言うように、湾岸戦争航空戦を米軍に学ぼうとの視点はあれど、連合国の視点ではあまりありませんでしたので、イギリスやサウジ空軍を含めてショボかった実態を、約30年後の今も変わらないと達観して押さえておくのも一興なのでご紹介します。5ページ強のメモですので、ご興味のある方は、是非ご自身でご確認ください
小椿氏のブリーフィング・メモによれば
●湾岸戦争時の米軍から学び示唆を得ようとする試みは多いが、米軍と米軍以外との軍事力格差は大きく、示唆を反映することは困難である。(そんな中ではあるが、)本論は多国籍軍の航空作戦の状況と、連合航空作戦の実相について述べる
●指揮統制は、形式的には、米国を中心とする西側諸国軍とサウジアラビアを中心とするアラブ諸国軍の連合作戦である。しかし実際には米軍が、軍事作戦運用のイニシアチブをとっており、中東を作戦地域とする米中央軍(CENTCOM)が、多国籍軍全体の運用を仕切っていた
●イスラム教徒がキリスト教徒の作戦統制下に入ることは政治的に困難であったが、アラブ諸国は作戦計画作成能力が欠如しており、特に航空作戦に関しては、米中央軍航空部隊(CENTAF)が多国籍軍航空部隊を完全に統制し、アラブ諸国にもサウジアラビアを通じて作戦計画が調整付与され、実質的にCENTAFがアラブ諸国軍を統制した
●航空戦力数では、中核となる戦闘機及び攻撃機に関して米軍が1700機以上で71%を占め、他国ではサウジアラビアが276機(F-15等)、イギリスが57 機(トーネード等)、フランスが44 機(ミラージュ等)、クウェートが40 機、カナダ26 機(F-18C等)、バーレーン24 機(F-16等)、カタール20 機、UAE が20 機、イタリアが8 機であった
●しかし最新のF-15を保有するサウジも、他の中東諸国と同様、西側と比して練度は低く、地上攻撃能力欠如等の問題点を抱え、整備能力も低く、米軍と比して減耗率が高かった
●1990年8月2日にイラクがクウェートに侵攻したが、11日には英空軍がクウェートに展開し、9月22日に米空軍の共同訓練を行った。自国の防空強化の必要性が高いサウジは、9月12日に米軍と共同訓練を行った。一方で米英軍との共同訓練や相互運用性が不足していたフランス空軍は、10月25日になって初めて他国との共同訓練を現地で始めた
●他国との共同訓練は、当初2か国間であったが、3か国や2か国での攻撃パッケージ訓練も10月中旬以降増加した
●航空作戦計画ATOの連絡は、米空軍と同じシステムを持たない米海軍にはフロッピーディスクで空母まで運ばれた。米空軍と同じ基地の他国軍には直接システムを介せず伝えられた
●「砂漠の嵐」作戦間の航空機の損耗は、米軍が27機、他の連合国が11機であった。しかし、米軍の37500ソーティーの飛行に対し、他連合国は4800ソーティーで、連合国の損害率かなり高かった
●攻撃作戦のOCA(攻勢対航空)とAI(航空阻止)では、米軍が85-88%を占め、一方で防空が主体となるDCA(防勢対航空)は、米軍が67%、サウジ空軍が18%を担った。しかし、作戦の中核となるイラク指揮中枢や主要航空基地等の攻撃は、ほとんどが米軍機によるものであった
●少数のイギリス空軍機が、OCAである飛行場攻撃に参加した事もあったが、優先順位の低い目標で、ほとんど米軍以外がOCA に参加することはなかった。またサウジ空軍もDCAなど防御的航空作戦に多く従事したが、イラク空軍の反撃がほぼなかったため、交戦機会は限定的で、交戦時もサウジ空軍操縦者はパニック状態だったと言われている。
●一方で、DCA 以外でも航空輸送に関しては、サウジが全体の空輸の8.2%、イギリスが6.3%、フランスが3.9%と比較的大きな貢献を果たした
連合航空作戦の評価
●イラクの重心部への攻撃には、ステルス機、巡航ミサイル、精密誘導兵器、AWACS、電子戦機といった先進的装備が不可欠であった。これらのほとんどは米軍がのみが保有し、重要局面で他の連合国軍の参加の余地はほとんどなかった。
●またアラブ諸国の航空機は、一部には高性能機があったものの、その練度や搭載兵器等は西側と比較し全く不十分であり、米空軍が有効性を認めたのは、英空軍ぐらいであった。しかし、それも量的には少なく、しかも当初は精密誘導兵器を使用できなかった事から、クラスター爆弾による飛行場攻撃のみが有効に機能しただけだった
●4か月間の「砂漠の盾」作戦は、後に続く「砂漠の嵐」作戦の長い準備期間として、連合作戦を前提とした場合に露見した様々な問題を解消することに活用された。例えば英空軍トーネードなどは空中給油機能もなく訓練もしていなかったが、この期間に装備改修や訓練を行った。
●作戦計画であるATOが前述のように円滑に配布できなかったことから、ATO に対する急な変更が発生した場合は、迅速な対応が可能な米空軍と海兵隊の地上基地配備航空部隊に割り当てられた。米軍以外の航空部隊は、急きょ変更可能性がある攻撃任務等に関与することはほとんどなかった
●当時中佐として航空作戦計画全体を担当した人物は約20年後、英空軍の貢献には言及したが、それ以外は象徴的なものであったと述べている。ただ米軍から称賛された英空軍部隊のイラク飛行場攻撃も、それほど重要だったとは評価されていない
●米以外の多国籍軍が多く参加したDCA等については、交戦の機会もほとんどなく、作戦として評価する状況になかった。連合作戦で懸念される友軍相撃は空対空戦闘において一件も発生しなかったが、(完全に担当エリアを分割した)作戦形態から見れば当然でもあった。実際には連合作戦を実施する上での問題が内在していたはずだが、一方的な戦況でそれが表面化することはなかった。
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結局のところ小椿氏(防衛大学校28期生 航空自衛官)は、新たな資料が出ない限り、30周年を来年8月に迎える「湾岸戦争」は研究に値しないと主張しているのでしょうか?
まぁ・・・50万人の兵力と1500機以上の航空戦力をサウジ等に派遣し、準備万端で臨んだ湾岸戦争と、まったく異なるのが対中国作戦です。
西太平洋地域には、兵力を展開させる場所もなく、もちろん時間的も余裕なく、イラクと異なり弾道ミサイルを始め高度な兵器体系を保有する中国との対峙は、湾岸戦争とは軍事的に全く異なるものだと言うのが、エアシーバトルコンセプトの説明の冒頭部分で強調されていた点です。
やっぱり、エアシーバトルレポートを読み返した方が有用な気がします・・・
防研のブリーフィングメモwebページ
→http://www.nids.mod.go.jp/publication/briefing/briefing_index.html
温故知新:エアシーバトルの脅威認識に学べ
「CSBA海洋プレッシャー戦略に唖然」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-13
「CSBA提言 エアシーバトルのエッセンス」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-30
「CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18
「脅威の変化を語らせて下さい」→https://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08
Air-Sea Battleカテゴリー記事100本
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/archive/c2301176212-1
ASB関連の記事
衝撃の台湾戦略提言→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
ヨシハラ教授の提言日本もA2ADを→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-18
再度:陸軍にA2ADミサイルを→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-10-30
副理事長:陸軍にA2ADミサイルを→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14