米国がOpen Skies条約の脱退意向を伝達

欧州加盟国に対し11月中旬の会議で
一応は他加盟国の意見を聞く姿勢も・・・
来年1月に米国は最終決定するとか・・

Open Skies2.jpg21日付Defense-Newsは、米政権高官から独占入手した情報として11月11日の週に米国の代表団がブラッセルでの会議でNATO加盟国にOpen Skies条約が既に有効性を失い有害だとの米国の分析結果を提示して脱退の意向を示し、関係国の意見を求めるとの姿勢を示したと報じました

この米国の脱退意図説明の動きは10月から各種チャネルで始まっており、米国は来年1月までは最終決定しないとの意向を関係国に示しつつ意見を聞く姿勢を見せてはいますが、脱退の最終判断をする際に米議会から「国際社会との対話をすっ飛ばした一方的な脱退」との批判を浴びないためだと記事は推測しています

現在米露を始め34カ国が加盟する同条約(Treaty of Open Skies)の経緯は古く、1955年にアイゼンハワーが基本理念を提唱しましたが冷戦激化で実らず、1989年に父ブッシュが再び持ち出し、1992年3月にNATOと旧 WTOの 25ヵ国が調印して条約が成立しましたが、実際の相互査察飛行は2002年になって実現したという代物です。

Open Skies.jpg条約に基づく査察飛行は、条約調印国の全領土上空からの査察を対象とし、年間の査察回数は査察を受けた回数認められ、査察用航空機やセンサーは相互に協議して合意の上実施、査察結果は共有データとする、などの原則に沿って行われることになっています

米国は商用衛星の高性能化で航空機による相互査察飛行の必要性が失われる中、ロシアが一部地域の査察飛行を拒否したり、査察飛行を悪用したりしていると指摘し、WSJ紙によればトランプ大統領は脱退を進めるよう指示する文書に10月に署名した模様です

欧州加盟国は貴重な軍備管理の枠組みだとして存続を求め、マティス前長官も在任時は「存続派」だったようですが、米国内は賛成反対が入り乱れており、議会も党派を超えて賛否が拮抗しており、トランプ大統領を動かす勢いはない模様です

21日付Defense-News記事によれば
OC-135.jpg●ブラッセルでのNATO会議で本件を取り上げた米国代表団は、国防省、統合参謀本部、国務省、NSCの中級幹部で構成され、以下のような要旨で説明した
●「以下が同条約に関する米国の立場である。同条約は米国の安全保障上危険なものであり、何も得るものがない。皆さん加盟国も得るものがないだろう。そこで米国はINF全廃条約から脱退したように、Open Skies条約から脱退する意向である。米国内での同条約の意義分析や検討は終了している

同会議では結論には至らず、欧州からの会議参加者は、冷や水を浴びせられたような表情で、米国からの意見提示を耳にしていた
ロンドンでのNATO首脳会議を直前に控え、欧州諸国は議会も含めて同条約継続の意向を米側に示していたが、米国側の意見提示は淡々と行われた

OC-135B.jpg欧州加盟国は一般に、核保有国である米露の対話の機会を設け、透明性確保のチャネルを提供する同条約は有意義だとの姿勢で、スウェーデン国防相はエスパー国防長官に対しレターを送付し、「同条約はロシアを含めた現状維持の役割を果たし、違反を抑制する枠組みを提供している。同条約は残存する数少ない欧州安全保障の枠組みである」、「他国の違反を脱退の理由にするのではなく、違反を止めさせる条約として機能させたい」と訴えている

●また英、仏、独の駐米大使がそろってホワイトハウスを訪問し、同条約からの脱退を考え直すようにデマルシェを行っている。
●条約に批判的な者は、ロシアがカリーニングラードやグルジア周辺の査察を拒否していることや、禁止されている査察目的地にまでのルート上で、ポーランド駐留米軍の位置や装備の偵察に利用していると指摘している

●米側からのブラッセルでの説明後、欧州側がどの様に対応するのか明確になっていないが、米側の姿勢はもう固まっていて意見伺いはポーズに過ぎないとか、欧州の軍事努力不足を批判する材料にされるのではと懐疑的な国もあるようだ
偵察の技術的には、天候が悪い環境でも、航空機であれば雲の下を飛行して査察が可能であり同条約の利点だと主張する者もいるが、多様な偵察手段を持つ米国を説得する材料にはならないだろうと言われている

OC-135B2.jpg●米国内では、同条約に基づく査察飛行に使用するOC-135Bの後継機予算約140億円(2019年度予算:2機分)が議論の対象となっており、手ごろな民間旅客機タイプに手持ちのセンサーを搭載する予算案が、更なる投資を求める条約維持賛成派と反対派の両方から批判を受けている
トランプ大統領の出身母体である共和党内でも意見は分かれており、米国の態度が決定されると言われる来年1月までの間に、様々な駆け引きが予想される
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閉鎖的なロシア圏と、SNS等ITツールの拡散でますます可視化が進む西側とでは、この種の条約を公平に運用することが難しいのではないかと思います。

欧州条約締結国の気持ちもわかりますが、米側からすれば失うものが多いとの指摘に反論することは難しい気がします

MinutemanⅢ2.jpg仮にOpen Skies条約から米国が脱退した後は、次の大きな焦点は新START条約が10年間の有効期限を迎える2021年2月5日になります。

トランプ大統領は新START条約を、「オバマ時代の悪いディールだ」と呼び、中国も含めた米中露の3カ国で核兵器管理の合意を追及すべきだと発言しており、ロシア側もミサイル防衛の整備でロシアに不利な条約だと破棄をちらつかせています。

Open Skies条約関連の記事
「米がOpen Skies条約の脱退へ!?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-10
「OC-135Bらは後継機無しの方向?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-05-28-1
「OC-135Bらの維持がピンチ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-07-08-1
新START関連の記事
「Esper新長官アジアへ中距離弾導入と新STARTの運命」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-04

ロシアの違反が発端:INF全廃条約の失効関連経緯
「トランプが条約離脱発表」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-20-1
「露は違反ミサイルを排除せよ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-06
「露を条約に戻すためには・・」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-20
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「露がINF破りミサイル欧州配備」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-15
米国核兵器を巡る動向
「次期ICBMのRFP発出」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-07-18
「今後10年の核関連予算見積が23%増」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-01-26
「核兵器輸送がNo2任務」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-11-11
「ついにINF条約破棄へ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-20-1
「露がINF破りミサイル欧州配備」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-15
「サイバー時代の核管理」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-02
「リーク版:核態勢見直しNPR」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-13
「議会見積:今後30年で140兆円」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-11-02-1

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