恐らく中東です
ビーム兵器ではなく電磁波で回路を瞬時に破壊
レイセオン製のPHASER system
24日付popularmechanics.comが、23日に米国防省が米議会に対し、高出力マイクロ波(HPM:High Power Microwave)を使用して小型無人機の群れを撃退可能なレイセオン製の「 PHASER system」購入を通知し、海外の実環境で1年間程度試験する方向だと報じています
サウジ石油施設が20以上の無人機や巡航ミサイルで攻撃を受け危機感高まるタイミングですが、 PHASER system自体は長年研究されてきたエネルギー兵器の一つで、プロトタイプ試作結果に米空軍が満足して実環境アセスメント(a year-long assessment)に入るタイミングが偶然一致したというのがレイセオン社の説明です
このPHASER systemはエネルギーをレーザーのようにビームにして照射し、一定時間目標にビームを当て続けて熱で対象を破壊するタイプではなく、高出力マイクロ波をストロボのように短時間照射し、無人機の電子回路を瞬時に破壊または一定時間機能不全にすることから、無人機の群れに対処可能とされています
ただし、人間が持ち運びできる程度の小型無人機(写真のRQ-11 RavenやScanEagle程度まで )が高度1000m以下程度を比較的低速で飛行する場合にのみ有効な射程範囲で、他の無人機防空手段と併用して「多層的な防御網」を構築する一手段と捉えられているようです
また、残念ながら巡航ミサイルに対しては効果が期待できないと、米空軍もレイセオンも判断しているようです。巡航ミサイルは速度が速いからかもしれません
ご紹介する記事は、米空軍所属時から今まで40年間このHPMに取り組んできたレイセオンの担当者の話が中心で、多少差し引いて考える必要があるかもしれませんが、気になるのは、「まだ公にできない、別の防御的な応用先がある」と語っているところですが・・・
レイセオン社Don Sullivan技術者などによれば
●米空軍は約180億円を投じてPHASER systemのプロトタイプを作成し、米国外の未公開の場所で約一年間のアセスメント試験を行い、試験は2020年12月20日までに終了すると議会に23日通知した。
●米空軍は同システム以外にも複数の指向性エネルギー兵器の試験購入を進めており、北朝鮮、アフリカ、ウクライナ、そして中東など、敵の無人機脅威が高まっている複数の場所や基地でのアセスメント試験を予定している
●米空軍のアセスメント試験責任者は「今回の議会通知は、最近の2-3の事案を受けてのことではなく、過去数年間に顕在化したニューズを受けての施策である」と説明しする一方で、「ホワイトサンズ演習場で試験を行っていたタイミングとぴったり」とレイセオンのSullivan氏は語っている
●ただDunford統合参謀本部議長が20日に、特定の装備品名には触れずに、米国は中東地域の防空を強化すると発言し、「サウジと協議中」と言及したところである。
●PHASER systemが対処可能な目標は、重量30㎏以下、飛行高度1200-3500フィート、速度100-200ノットで、RQ-11 Ravenや大きくてもScanEagleクラスの無人機である
●従って、あくまでPHASER systemは多層防御アプローチの一翼を担うもので、ビーム兵器を含む多様な防御手段を組み合わせて無人機脅威に対処する構想の一部である
●PHASER systemは高出力マイクロ波を使用し、熱で対象を破壊するのではなく、莫大なエネルギーを相手システムの回路にぶつけて破壊または機能停止にする原理であり、対象への効果は瞬時に発生(マイクロセカンド以内の時間)する。従ってレーザー兵器のように一定時間目標に照射し続ける必要がないストロボのような照射でOKだ
●実際の運用では、まずレーダーで探知し、次にカメラやたセンサーで確認し、それら追尾情報を基にPHASER systemが目標無人機を指向しで高出力マイクロ波を発射する流れとなる
●米空軍要員は既に同システムの教育訓練を受け、演習で実際に無人機を撃墜しており、この結果が同システムを購入して海外の実環境でアセスメント試験を行う決断に導いた
●Sullivan氏は「既に複数の回転翼と固定翼の無人機の同時撃墜に成功している」と説明し、「過去にはマイクロ波兵器がその広い指向性から、無差別に味方にも損害を与える事もあったが、無人機の群れ使用が一般的となってきた現代においては、物理的兵器のように弾切れがないことと共に、マイクロ波のこの欠点が強みとなっている」とも言及している
●無人機対策以外にも、だれも公には語らないPHASERの使用法があるようで、それは防御目的での使用法だとSullivan氏は認めたが、「秘密事項であるため、無人機対処以外の応用については語ることを許されていないので言及できない」と語った
●Sullivan氏は死屍累々の指向性エネルギー兵器開発を振り返りつつ、最近のエレクトロニクス技術やsolid-stateレーザー技術の発達により、エネルギー兵器の実用化が近づいてきたと語り、2021年に艦艇運用を予定する米海軍の Laser Weapon System (LaWs)や、2022年の運用開始を予定する米陸軍のhigh-energy laser weaponを例に挙げた
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PHASER systemがどの程度の指向性があり、周囲への影響をどの程度局限できるのかが気になります
ネットで検索すると、動画を含めた様々な説明資料が見つかりますので、ご興味のある方はどうぞ。でも、日本のように人口が密集している国や地域での使用にはリスクがあるような気がします
2016年公開の試験映像:当時は陸軍が試験を
エネルギー兵器関連
「米陸軍が50KW防空レーザー兵器契約」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-08-05
「米艦艇に2021年に60kwから」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-05-24
「F-15用自己防御レーザー試験」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-05-04
「エネルギー兵器での国際協力」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-06-27
「エネルギー兵器とMD」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-12
「レーザーは米海軍が先行」[→]https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-24
「無人機に弾道ミサイル追尾レーザー」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-12-17-1
「私は楽観主義だ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-09-23
「レーザーにはまだ長い道が」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-18
「AC-130に20年までにレーザー兵器を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-06
国防省高官がレーザーに慎重姿勢
「国防次官がレーザー兵器に冷水」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-12
「米空軍大将も慎重」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-24
夢見ていた頃
「2021年には戦闘機に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-02-21
「米企業30kwなら準備万端」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-17-1
「米陸軍が本格演習試験」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-14-1