米空軍協会機関紙の編集長が反対論を展開
6月号の米空軍協会機関「AirForce Magazine」の巻頭言で、Tobias Naegele編集長が、今後数か月行われる議会での予算審議を前に、改めてトランプ大統領が進める「宇宙軍創設」が如何に問題をはらんでいるかを論じています
この米空軍協会機関「AirForce Magazine」は米空軍やそのOB・OGが主要な読者で、関連軍需産業や米空軍がたっぷり協力して編集している月刊誌ですから、米空軍の意向に反する主張を展開するはずの無い性格のものです。
要するに、最高指揮官である大統領が決めたことだから正面切って反対はできないが、米空軍人の多くはこう考えているとの主張を展開していると考えてよいと思います
今後の米国内の「宇宙軍創設」に関する法手続きに詳しくありませんが、憲法レベルの法改正が今後必要であると認識しており、まだまだ波乱がありそうな予感もしますので、同編集長のざっくりとした反対論を改めてご紹介しておきます
6月号「AirForce Magazine」の巻頭言によれば
●過去25年ほどの米軍の作戦運用を見てきた者ならば、米軍が宇宙に依存していることに疑問を挟むものはいないだろう。そして中国やロシアは、米国の無防備な宇宙アセットを米軍の弱点だと見ていることだろう。北朝鮮やイランもそうだろう
●宇宙軍独立に賛成の者は、このような宇宙の重要性にかんがみ、また中国やロシアが2015年に宇宙重視の国防組織改革を行ったことなどを持ち出して、宇宙に特化した軍の創設を訴えている
●宇宙軍独立に反対するものは、空軍からの分離により、これまで養ってきたシナジー効果を失い、軍種間対立に油を注ぎ、新たな能力獲得用の限られた資源を分断し、官僚機構を積み上げる事になる独立に反対している
●そして政府が考えた宇宙軍構想が、現在でも60もの下部政府機関に細分化されている縦割りに何ら改善をもたらさないことや、現在米空軍内で宇宙を担当しいる者をそのまま横移動させるだけで、新たなアセットのインプットが実質ない中で、看板だけ架け替えるような改編が何の意味をも持たない事を反対派は訴えている
米空軍創設の歴史を振り返るべき
●新たな軍腫創設の歴史を「米空軍誕生の歴史」から考えてみよう、WW1時に出現した航空戦力について、米陸軍航空隊の人々はWW2までの間に深く研究し、様々な議論を重ねながら戦略・戦術構想に落とし込んでいった。そしてWW2の実際の戦場において試し、新たな技術を投入し、戦いながら革新を追求し、新たな軍構想を固めていった
●それが1947年の米空軍創設につながったのである。このような広範な基礎検討や実戦の経験の積み上げを経て、米空軍創設時に、その動きに反対する動きはほとんどなかったのである
●翻って、現在の宇宙軍創設案はどうだろうか? 米軍は現在、宇宙に兵器を保有していないし、いつどのように戦いかの戦略やドクトリンさえも固めていない。米軍の宇宙アセットは有用だが、独立軍のアセットと呼べるレベルにもない
●統合参謀本部の戦略計画部長であるDavid W. Allvin空軍中将は、統合作戦の中で宇宙やサイバー能力を生かし、この特徴を反映させる任務を帯びているが、今だ道半ばであり、「我々は全てを融合して全ドメイン体制で臨まなければならないし、サイバーや宇宙はその緊要な要素である」と統合の重要性を述べている
●しかし、宇宙はサイバーより長い歴史があるが、今でもサイバーより未成熟で、なおかつ最近になって宇宙アセットの脆弱性が急激にクローズアップされることになっている中で、宇宙において何を守るのか? 何を攻撃すればよいのかさえ固まっていない。
●このような検討には時間が必要なのだ。新たな軍を創設してから、これらコンセプトをほぼ無から構築し、同時に軍としての活動を並行して行っていくことになるが、この点を米議会はよく念頭に置いて、また米陸軍から空軍を創設した経緯や時間をもう一度振り返り、慎重に本件を審議してほしい
段階的に慎重に進むべきではないか
●米議会は、まず米空軍内に「Space Corps」又は「Space Force」を創設し、戦略やドクトリン、更に必要な手段を準備し、陸軍や海軍やNRO等から人材を段階的に受け入れ、徐々に国家安全保障の計画や政策立案に組み込んでいく事が適当ではないか
●経費面でも問題が多い。米議会予算室CBOの試算によれば、宇宙軍創設による新たな司令部組織等の新設で、年間900億円から1400億円国防省予算が増加し、別に初期費用として1200~3500億円が必要となると見積もっている。上で示した我々の段階的案なら、これら経費を圧縮できる
●このような重要なことを拙速に急ぐからいけないのだ。私の意見は極めて常識的なものだと思う。政権側が持ち出し案件であるが、議会が議論する時が来た。慎重にリスクの少ない道を、将来の選択肢にも配慮して進むべきだ
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「宇宙軍創設」に正面切って反対はせず、時間をかけて段階的にと主張することで、宇宙軍創設のモメンタムを削ぐことを狙う作戦でしょうか?
「いったん白紙に戻して、一から議論しなおそう」は、日本の野党の典型的なアプローチの様で気になりますが、トランプ大統領が宇宙軍創設の必要性を誰から吹き込まれたのか? どれほどの信念があるのか疑問も多いので、ご紹介しておきます
一方で、米空軍は戦闘機や爆撃機ばかりに投資するから宇宙アセットに資金がきちんと配分されないとか、戦闘機パイロットが支配している組織だから宇宙への適切な資源配分は期待できない・・・等の疑問に、米空軍側は答える必要があります
資源配分について何も編集長が言及していないのは、「今現在もしっかり公平にやっているから問題視する必要はない」との信念からかもしれませんが・・・
米空軍と宇宙
「宇宙軍で考えるべきこと」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-05-18
「宇宙攻撃能力を示せ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-11
「宇宙飛行士女性が次期長官?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-05-22
「大統領が宇宙軍創設を訴え」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-06-21
宇宙軍を巡る動向
「宇宙軍宣言に国防省内は冷ややか」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-06-21
「国防副長官が火消しに」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-29
「トランプの宇宙軍発言に真っ青」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-17
「下院が独立法案承認」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-14-1
「下院が宇宙軍独立案を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-22-1