米空軍2トップ寄稿:北極圏と米空軍

米空軍最初の大規模空輸と空爆作戦は北極圏だった
Arctic.jpg9日付Defense-Newsに、Wilson空軍長官とGoldfein空軍参謀総長が「Air power and the Arctic: The importance of projecting strength in the north」とのタイトルで寄稿し、北極圏での米空軍の活動の重要性を訴えています。
「冷戦終了時には、多くの人々は米本土北方国境の安全が確保されたと考えたであろうが、技術の発達を受け、敵対者はこの強固な国境を穴だらけにしようとしている・・・」との一文が示すように、敵対者から米国への最短距離の国境であり、また資源豊富な北極圏は新たなつばぜり合いの最前線となっています
恐らく関連予算が多く含まれているであろう2020年度予算案の2月公開を前に、その背景を説明し、関係者の理解を得ようとの狙いがあるものと邪推しておりますが、平易に米国と米軍にとっての北極圏領土の重要性を説明していますのでご紹介します
Air power and the Arctic:

The importance of projecting strength in the north
経緯と今の姿
Arctic rader.jpg●米空軍は半世紀以上にわたり北極海を飛行してきた。忘れられているが、米国が初めて大規模空輸や空爆を行ったのは、WW2時のアラスカに連なる島々への「Thousand-Mile War」である
●WW2で日本軍がアリューシャン列島を侵略する10年以上も前に、ミッチェル将軍は同列島での飛行場建設を議会に主張し、「アラスカを制する者は、世界を制する」と訴えた。当時でさえ北極圏は戦略的に重要で、ミッチェルの言葉はその重要性を裏付けている。たとえ最低限のインフラや、厳しい気象状況が軍の活動を制限していても
75年の時の経過を経て、北極圏の米国にとっての重要性は一層増している。北から接近する者に関しても、また米国の戦力投射の視点からしても、その重要性を誇張しすぎることはない
●同エリアにはカギとなるアセットが点在し、米空軍も、戦闘機や空中給油機基地から、北極圏を通過して向かってくるミサイルや航空機を監視するレーダーや宇宙監視システムを運用している
●一例として、2022年までには、北極圏で運用される戦闘機は、他のどの地域のアセットよりも最新型に更新される
時代の変化と他国の動き
FPS-115front.jpg冷戦終了時には、多くの人々は米本土北方国境の安全が確保されたと考え、凍結した広大な土地が米本土防衛に厚みを増してくれると見なしたであろうが、技術の発達を受け、敵対者はこの強固な国境を穴だらけにしようとしている
レアメタル、漁業資源、世界の1/5を占める石油天然ガス埋蔵量をはじめとする北極圏の豊富な天然資源は、米国だけでなく、多くの他国が注目している
ロシアはGDPの2割を生み出す北極圏の経済権益確保に乗り出しており、地域での軍事プレゼンス再構築に取り組んでいる。
中国は地域を「一帯一路」政策の一部と見なし、経済をテコに他の北極圏国家で経済プレゼンスを確立しつつある
米国と米軍の取り組み
Arctic Ace3.jpg●これらの変化に対応するため、昨年7月、当時のマティス国防長官が「米国は北極圏でのゲームに加わらねばならない:America’s got to up its game in the Arctic」と述た。
●米空軍は包括的な北極戦略を検討中で、新たなNDS目的を達成する能力を確保する必要がある。我々は他パワーの侵略を抑止し、我が権益を守る体制を整えねばならない
●米空軍は、北からのミサイルや爆撃機からの防衛のため、多くをカナダと協力運用している50以上のレーダーの近代化を進めている。また北部の基地は、北極圏にあらゆる場所に迅速に航空機を派遣する重要な基盤である
●米空軍は最近、グリーンランドの宇宙監視アセットを更新した。これは米国で最も北にある米国拠点である。更に、北極圏の厳しい環境での活動に備える国防省で最も古いサバイバル訓練施設やそり付き航空機の運用を維持している
●これらの任務継続には問題が避けられない。北極圏の厳しく予想困難な気象、短い施設建設可能シーズン、長い暗闇期間、更にオーロラや宇宙現象による通信障害など、多くの困難が横たわっている
●これらへの対処には同盟国やパートナー国との協力がより一層重要になる。カナダとの長い協力関係に加え、米空軍は他の北極圏関係国との関係強化を追及しており、特に演習を通じて、気象データ・通信・偵察データの共有や、作戦運用経験の交換することを考えている
Arctic ship.jpgWW2当時の北極圏作戦で派生した尊い犠牲者の記憶は、極地での厳しい環境における備え不足が招く危機を明確に物語っている。そして米議会を含めた多くの人々が、北極圏への注目の必要性を訴えている
●2019年国家授権法は国防省の北極圏戦略を更新し、その任務と役割を示している。世界の動きや事象は、我が国益を守るため、スマートに行動を開始すべき時であることを示している
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確かに、超々音速兵器にしても、弾道ミサイルにしても、北極海の氷減少に伴う覇権争い先鋭化にしても、北極圏へのアクセス確保するための航空基地を維持し、各種センサーを近代化して維持していくことが基礎をなすと言えましょう。
ミッチェル将軍の「アラスカを制する者は、世界を制する:Whoever holds Alaska will hold the world.」との言葉は、今後米空軍関係者がよく使うことになるのかもしれません。
他の分野に関してもこのような「寄稿」があるのか、北極圏がポイントなのか、今後に注目したいと思います
北極に関する話題
「グリーランドに中国企業」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-09-08-4
「北極航路ブームは幻想?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-13
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「米軍北極部隊削減と米露の戦力差」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-02
北極圏:米国防省と米軍の動き
「米軍C-17が極地能力強化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-02
「北極海での通信とMUOS」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-08-25-1
「米国防省の北極戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-23-1
「米海軍が北極対応を検討中」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-20
ロシアの北極圏活動
「ロシアが北極圏の新しい軍基地公開」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-04-30
「露軍が北極に部隊増強」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-04-1
「露が北極基地建設を加速」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-09
「ロシア軍が北方領土に地対艦ミサイル配備へ」 →http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-26

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