長らく夏休みをいただきました・・・
16日、米国防省が議会報告を義務付けられた中国の軍事力に関する報告書「Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2018」を発表しました。
2014年版までは発表会見があったのですが、2015年以降は短いコメントがwebサイトに掲載されるだけとなり、2018年版は2ページの「Fact Sheet」と現物レポートがwebサイトに掲載されるだけの公開手法です
正確には、議会に報告する「非公開版」から公開可能な部分をまとめた「公開版」が発表されたということです。昨年の同レポートのフォローをさぼっていたので厳密な比較はできないのですが、公開版と非公開版の区別がいつからできたのか・・・このあたりが中国に対する警戒感の高まりを示すものと考えます
ただ、まんぐーすが知る2016年版でも記述内容の大きな変更の兆しが感じられたのですが、2018年版では中国軍事力の狙うところを端的に表現した部分が根こそぎ省略され、大きな中国の大戦略部分と細かな現場の活動部分をつなぐ、軍事力強化の目的や狙いを説明した「重要なつなぎ部分の記述」が、少なくとも「公開版」からは削除されているように感じました
この「重要なつなぎ部分削除」が、あまりにも厳しい現実だから削除なのか、中国を刺激しすぎるからなのか、中国周辺の同盟国国民(例えば日本国民)を投げやりにさせてしまうからなのか・・・は良くわかりませんが、消化不良になること間違い無しの報告書となっています
まず、まんぐーすの独断で「公開版」記述内容の概要をご紹介すると
中国の大戦略
●21世紀の最初20年間は「戦略的機会」の期間なので、この間に「包括的な国家パワー」を増進し、「中国の夢の再興:China Dream of national rejuvenation」に向け国力をつける期間
中国の具体的な動き
●経済や政治や軍事的影響力を駆使して勢力を伸ばす。「一帯一路」(One Belt, One Roadから、今はBelt and Road Initiativeと呼ぶらしい)の推進
●スリランカの港を99年間借り上げ(Piraeus, Greece, and Darwin, Australiaと同様に)たり、ジブチに初の海外基地を設置して海兵隊を駐留させる
嫌がらせや圧力行使(失敗例も)
●南シナ海埋め立て島での軍事施設拡充や中国軍の活動活発化、尖閣諸島周辺での武装漁民も交えた既成事実化活動
●韓国へのTHAAD配備に圧力も結果的に失敗、インドと中国国境近くのブータンに大規模道路建設画策も、インド軍との緊張が高まり断念、
中国軍の改革
●陸軍の兵站分野を中心に30万人の削減。また引き続き、近代戦に対応できる組織改革を推進中
●より実戦を想定した演習の高度化統合化、ISRデータの共有やターゲティングチームからの情報の統合軍内での共有
●引き続き汚職体質の改革・取り締まり
●着上陸作戦能力強化を狙った中国海軍陸戦隊(海兵隊:PLAN Marine Corps)を、現在2個旅団1万人規模を、2020年には7個旅団3万人に拡大
●中国空軍長距離爆撃機が東シナ海や台湾周辺に留まらず、第一列島線を超える飛行訓練が急増し、米国や日本を標的に想定した訓練を行っている。また、中国空軍が核攻撃任務を再び付与され、ICBM、SLBMと並ぶ核の3本柱体制が確立した
●ステルス長距離爆撃機の研究開発が開始され、10年後の実戦配備を目指している
●装備近代化の手段として、「外国企業への直接投資による技術獲得や、サイバー攻撃による技術窃盗も用いている」とも記述
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理由は不明確ながら、まんぐーすが「削除された」と考える、2015年版までは(2016年版では部分的に)残っていた読者の理解促進に必要な大戦略と具体的な年度事象を結びつける「重要な中国軍事戦略の記述」、つまり報告書サマリーの冒頭に必ず記述があった事項とは・・・
●中国軍事力近代化の目的は「高列度紛争に短期間で勝利:winning of short-duration, high-intensity regional conflicts」である。台湾が主方向ながら東や南シナ海にも広がりつつある。
●具体的には弾道・巡航ミサイルを増強強化、サイバー戦や宇宙戦や電子戦に注力、高性能航空機、統合防空、情報作戦、着上陸・空挺作戦等の改善も・・・・・
●これら装備で、有事の際に米国を含む敵対戦力を押し返すことを試みている。中国はまた、対宇宙、サイバー攻撃作戦、電子戦能力にも焦点を置き、敵対者の近代的な情報戦を拒否する備えを行っている
●そして個々の変化を数字や名称を上げ、各種ミサイル、電子戦、サイバー、航空機、艦艇、着上陸能力では・・・と順番に説明する流れ・・・
2016年版にはかろうじて「short-duration, high-intensity regional conflicts」能力追求との表現は残っていましたが、後は国務省の外交白書ではないか・・・と感じるような抽象的な表現の報告書となってしまい、2018年版に至っているように感じます。
改めて申しますと、中国軍の近代化は、台湾を中心に周辺の米軍基地や日本を念頭に、「高列度紛争に短期間で勝利」することを狙いとしたものだ・・・ということを再度肝に銘じるべきです。ここを外しては大局を見失います!
補足ですが、読売新聞の解説記事で目に留まった表現は、中国海兵隊の増強の解説で、ある中国軍の動向に詳しい関係筋が
●「習近平主席が軍の2大戦略目標である台湾統一と南シナ海島嶼支配に本腰を入れた証拠」と語っている部分です
中国の軍事力 全文145ページ
→https://media.defense.gov/2018/Aug/16/2001955282/-1/-1/1/2018-CHINA-MILITARY-POWER-REPORT.PDF
同レポートの要旨(2ページ)
→https://media.defense.gov/2018/Aug/16/2001955283/-1/-1/1/2018-CMPR-FACT-SHEET.PDF
過去の「中国の軍事力」レポート関連記事
「2016年版」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-15
「2015年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-17
「2014年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-06-06
「2013年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-08
「2012年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-19
「2011年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-08-25-1
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→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/archive/c2300801487-1