4軍の中で空軍が最も消極的だ。間違いである事を望むが
空軍は間もなく組織文化の変更に迫られるだろう
3月28日、米国防省SCO(戦略的能力緊急造成室)のWilliam Roper室長が米空軍協会ミッチェル研究所で講演し、関心が高まっている使い捨て無人機の群れの使用に関し、4軍の中で米空軍が最も消極的だと皮肉たっぷりに語り、ハイエンドの戦いでの「使い捨て&群れ」の重要性から、米空軍は早晩考え方の根本的変革を余儀なくされるであろうと批判的に訴えました
つまり、有人機の機数やパイロットのポスト死守のため、無人機に消極的すぎるとの批判でしょう。航空自衛隊に対しては、この10倍強い口調で非難しても良いくらいですが・・・
米空軍協会は米空軍の応援団で主要軍需産業や空軍OBで構成され、ミッチェル研究所は米空軍の主張を下支えする「サポーター」の様な視点で研究を行うシンクタンクです。
従って、米空軍に対してあまり批判的なことを言う事は無く、やんわり提言する程度が多いのですが、あえて厳しい視線を持つSCO室長を招き、気合いを入れる必要を感じたのでしょう。
なおSCOは「Strategic Capabilities Office」の略で、最新の技術や戦いのコンセプトを、鈍重な国防省の調達プロセスを「すっ飛ばして」でも迅速に装備に反映して部隊に届けようとの機能を持った、国防長官直属の組織で、カーター前国防長官が実質立ち上げた組織です
各軍種にも同様の役割を持つRCO(緊急能力造成室:Rapid Capability Office)等が立ち上がっており、
3月29日付Defense-Tech記事によれば
●シンクロして機動し、戦闘機の前方を群れをなして飛ぶ、使い捨て航空機のイメージと、その重要性をRoper室長は訴え、消極的な米空軍に対し警鐘を発した
●(米空軍の従来の考え方とは異なり、)カオスな考え方だと思われるかも知れないが、米空軍は想定しているよりも早期に、この無人機コンセプトを受け入れる必要があると訴え、「単独で別々の検討でなく、チームを形成すればより高い結果が得られるだろうし、将来的に検討を発展させるにも有効だ」と同室長は語った
●しかし同時に、皮肉なことに4軍の中で米空軍が一番、この技術の導入に消極的であると訴え、「間違えであれば嬉しいのだが、米空軍では使い捨て無人機の群れ検討が困難に直面している」と指摘した
●そして「現有アセットの全てが高価すぎるが、これは離陸したモノは帰還しなければならないとの前提に立っているからだ」、「ライフサイクルコスト議論で調達が鈍重になっている」、「ハイエンドの戦いを想定している」とも説明した
●更に、これまで使い捨てアセットの概念がなかった米空軍にとっては、組織文化の変更は困難だろうが、これまで問題なかったとは言え、アセットを守り、維持し、支えていくのは大きな負担である。何かを捨てる発想も悪くない
●例として、DARPAとSCOが空軍とも協力しつつ進めている「Avatar」があり、旧式戦闘機を無人機に改良したモノやUAVを、有人戦闘機に先行させて強固に防護された敵空域へ侵攻させるイメージを語り、「少なくとも戦いの初期段階では、操縦者の安全を考え、無人機に困難な部分を担わせるべきだ」と説明した
●米海軍は今年1月、FA-18から103機の小型無人機を射出し、群れとして運用する実験を行っている。米空軍も2014年に、F-16から無人機投下の実験いる
●米空軍は昨年5月、「小型無人機の将来計画:Small Unmanned Aircraft Systems Flight Plan」を定め、今後20年間を見据えてつつ、小型無人機の群れを既存の諸事業に盛り込むことを示唆している
●Roper室長は、空軍は文化の変革をより早く迫られるだろうと述べ、冷戦時代に米空軍はアセットの長期使用を想定したが、米軍は永久にその考え方を続ける事は出来ないとし、ハイエンドからローエンド紛争まで、無人機の群れ活用等に舵を切る必要があると訴えた
●そして、仮に米空軍がその方向を選択せず今日の状況を続ければ、世界はその様子を見逃さず、敵はその隙を突くだろうと訴えた
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新政権の下でSCOが生き残るのかも気になるところですが、日本への影響も心配です。というか、日本が反応できるのかが心配です。
日本でも、「策源地攻撃」とか「敵地攻撃」とかの話題が出始めていますが、戦闘機飛行隊と戦闘機の数を維持する事しか考えず、ダチョウよろしく脅威の変化から目を背け、有事の運用を全く考えてこなかった航空自衛隊は、この講演をどのように捕らえるのでしょうか?
F-15CやDを全廃して改良型F-16に役割を移管する案が飛び出したり、THAADの押し売りだったり、無人機の群れの話だったり・・・玉石混淆、米国の様々な方面から、様々なアイディアや泥舟やジャブが今後も飛んでくるでしょう
受け身で受動的にその都度検討していては、政治サイドや外交サイドの押し切られてしまいますよ・・・。自らがしっかりした脅威認識の基、世界の軍事技術動向を押さえつつ、財政状況や日本の優先施策も視野に入れつつ、あるべき姿を持っていないと、流されて流されて、組織がバラバラになってしまいますよ・・・既にその兆しが見えていますが・・・
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