RAND:中国の核兵器戦略に変化の兆し

RAND Nuclear.jpg17日、RAND研究所が「China’s Evolving Nuclear Deterrent:Major Drivers and Issues for the United States」(中国核抑止の変化:変化の主要因と米国の課題)とのレポートを発表し、中国の核兵器戦略に劇的な変化があるわけではないが、様々な環境の変化を受けて変化の兆しがあり、注意と対応が必要だと論じています
エアシーバトルや第3の相殺戦略の影響、トランプ政権のミサイル防衛強化姿勢、中国軍内の力関係の変化、周辺諸国の核兵器動向などが環境の変化要因としてとらえられ、それに対応する変化を見せる中国核戦力の状況が示唆されています
(いつものことながら、)きちんと中身を読んでいないので、レポートが指摘する中国核戦力の具体的な近代化の様子をご紹介できませんが、情勢に基づく変化の方向をそれなりに「なるほど・・・」と思わせる視点もありますので御紹介します
RANDの同レポート関連web記事によれば
Rocket Force2.jpg●中国は、1964年に初の核実験を行って以来、比較的少数の核戦力を「no-first-use政策」の下で保有し、その方針に大きな変化はないが、国内外の諸要因を受け、核戦力の近代化や構築への取り組みを加速しており、その歩調を加速させるだろう
中国は米国への対応を主に考え、その動向を注視して核戦略を検討しており、特に米国のミサイル防衛強化に懸念を持っている。また通常兵器による世界即時攻撃構想(conventional prompt global strike)の開発動向にも懸念を持っている
●また中国は地域周辺国の核兵器開発に伴う、複雑化する核戦力分布や核動態にも懸念を持っている。
特に、中国の専門家の中には、インドが中国との「核の平衡:nuclear parity」を追及するような姿勢を示すことは、中国として受け入れられないと主張している
中国の核政策における主導権にも変化がみられる。これまで政治指導者が強く関与していたが、核研究、開発、製造等に関する意思決定への関与が最近少なくなり、中国軍内で発言力を増してきたロケット軍幹部(旧第2砲兵幹部)の地位が増している
Rocket Force3.jpg●懸念点として今後注意が必要な点として、ロケット軍内で通常兵器と核兵器部隊の垣根(firewall)がなくなってきており、通常兵器部隊の手順や技術が核兵器部隊に応用されている点がある。
●「no-first-use政策」の見直しなどの大幅な政策見直しがある可能性は低いが、政策の定義を環境に合わせて修正する可能性はあり、全体として核抑止や核兵器重視の姿勢は強まる可能性が高い
●これにより、将来、核戦力の「no-first-use政策」の考え方が変化し、敵の通常兵器による攻撃を「first-use」とみなし、核兵器部隊が対処部隊になるかもしれない
米国や中国への提言
米中は戦略抑止に関する対話を閉ざさず、互いを知ることで、抑制的な姿勢が双方に最大の肯定的な影響があることをよく理解すべき
中国の核戦力強化の主要因は、米国のミサイル防衛強化である。米国はミサイル防衛の対象を、ならず者国家からの攻撃対処程度に制限すべきである
Rocket Force4.jpg中国は、通常兵器と核兵器部隊の垣根を明確にし、紛争発生時に相互の部隊の行動が混乱しないようにすべきである
中国は核ミサイルのMIRV(多弾頭搭載型ミサイル)を削減すべき。核兵器削減交渉の経験からすると、MIRVは先制攻撃に脆弱であることから、これを多数保有することは先制攻撃の可能性を高め、紛争の不安定化を招く可能性が高くなる
中国の核戦力が向上するに従い、特に日本や韓国はより具体的な核抑止強化を求めるだろう米軍核兵器のアジアへの再展開要求の可能性もある。米国指導者は核抑止の信頼性を高めるステップを打ち出し、再展開などのオプションを考察すべき
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トランプ政権の核兵器増強方針には懸念の声が米国内でも大きいのですが、「ミサイル防衛の強化はほどほどに」とか、「中国との対話を重ね、相互に抑制的な姿勢を」とか主張されると、旧ソ連と中国を同様にとらえてよいものか???・・との思いにもかられます
Rocket Force5.jpgしかし、「インドへの懸念」や「ロケット軍の発言力アップ」や「conventional prompt global strikeへの中国の懸念」などの視点は、なるほど・・・だと思います。
本当に難しい時代になりましたし、日本も国民レベルの常識的判断能力を高めないと、国としての判断を誤りかねない時代だなぁ・・・と思います。そして、日本の野党の現状を見るにつけ、その情けない状況にため息が出ます
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トランプ政権とNPR(核態勢見直し)→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-09
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「2016中国の軍事力」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-15
「2015年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-17
「2014年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-06-06

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