15日、マケイン上院議員が2018年~22年までの国防予算提言書(33ページ)を発表し、オバマ政権が建てた5ヶ年計画予算の総額を約47兆円($430 billion)上回る大幅な国防費増強計画が必要だと訴えています
ただしマケイン上院軍事委員長は、この5ヶ年計画はあくまで、オバマ政権8年間の国防費削減で傷つき流血状態にある米軍の「緊急止血」のために大部分が捧げられる計画と予算増額でアリ、必要な能力向上にはその後の継続的な予算増が不可欠だと訴えています
マケイン議員の提案書(4.2MB)
→http://www.mccain.senate.gov/public/_cache/files/25bff0ec-481e-466a-843f-68ba5619e6d8/restoring-american-power-7.pdf
取り上げるのはマケイン提案の米空軍に関する部分で、戦闘機には「high/low mix」が必要で、対テロのような任務用に5世代機や4世代機を使用するのは高コストだから、軽攻撃機を300機導入せよとの主張です
そして本日ご紹介するのは、米空軍参謀総長がマケイン議員提案を「great ideaだ」と評価し、既存の軽攻撃機の能力デモンストレーションを関係企業にお願いする検討をしていると語った件です。
マケイン議員の提案には、F-35調達機数削減も含まれており、空軍参謀総長が何処までを「great idea」と表現したのか不確かですが、次世代制空機との関連でF-35削減に言及していて興味深く、とりあえず関連報道をご紹介しておきます
マケイン提案の戦闘機関連部分
●現在米空軍は、戦闘投入可能な戦闘機を1100機体制でしか維持していないが、2012年の戦略国防ガイダンスは1200機体制を求めている。しかし国際情勢や脅威の変化を考慮すれば、米空軍には1500機体制(約60個飛行隊)が必要である
●同時にこの体制に於いては、ハイエンドの戦いとなる対「peer competitors」用には最先端航空機が必要だが、ローエンドの対テロ任務には低コストのシステムを準備すべきである
●F-35は能力の高い航空機であるが行動半径が狭く、F-22も優秀ながら再生産は非現実的である。従って米空軍は2020年以降の制空を見据え、新たな戦闘及び電子攻撃能力を獲得すべきであるが、これは従来の戦闘機とは異なり、無人機の可能性もある
●将来の制空には、より大型の機体で航続距離が長く、多くのセンサーや弾薬が搭載可能なタイプが好ましいだろう。この観点からも、B-21爆撃機は現計画より多くを調達する必要があると考える
●F-35は上記のような行動半径や搭載量の限界もあり、現計画の様に2040年までかけて1763機を調達するのは非現実的であり、削減の方向で調達機数を見直すべきである
●一方で当面の戦闘機不足を補うため、今後5年間は可能な限り多くのF-35を調達する必要があり、生産能力が段階的に向上することを踏まえ、現計画の228機より73機増やすべきだ。調達数削減の結論はその後に判断すれば良い
●「high/low mix」の「low」に関しては、A-10攻撃機を引き続き維持すると共に、調達及び維持経費も安価な軽攻撃機を300機導入(2022年までには200機)して対応すべきである
●これにより任務を軽減された5世代機や4世代機は、ハイエンドの戦いに備える。なお4世代機は今後も活躍できるように、無人機との編隊編制を可能にする等の投資を行っていく
Goldfein米空軍参謀総長の反応
●18日、シンクタンクAEI(マケイン議員も良く登場する共和党系の研究機関)で講演した同大将は、軽攻撃機を300機導入すべきとのマケイン提案を「great ideaだ」と評価し、「15年継続している中東での戦いは、有志連合での戦いとして継続するだろう。だから我々はこの戦いを継続する方法を検討して変化し続ける事が必要だ」と語った
●同参謀長は更に、「OA-X(軽攻撃機)コンセプト)は、より低コストで将来にわたり維持可能なモデルであり、同盟国や有志連合国にも協力を持ちかけることが可能なアイディアである」と表現した
●マケイン議員の提案以前に、2016年中旬から米空軍内でも軽攻撃機の導入是非が議論されており、飛行時間当たりの維持費を抑え、他の作戦機をハイエンド紛争の備えに回すことが出来る策として注目されている
●Goldfein大将は具体的な進め方として、まず既存の市場にある該当機首のデモ飛行を企業に依頼し、OA-X検討のスタートにしたいと考えている模様で、18日の講演でも、最終決定はしていないが春には実現出来るかも知れないと述べ、「多くの企業の参加を期待している」と語っている
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軽攻撃機の候補として、空軍参謀総長は練習機のようなジェット機「Scorpion」のデモ試験への参加を促したようですが、アフガン空軍に提供した「A-29 Super Tucano」、A-29のライバルだった「AT-6 Wolverine」、また次期練習機候補の一つである「Alenia Aermacchi M-346」等があるようです。
米空軍は退職者続出でパイロット不足に苦しんでいますが、軽攻撃機導入はこの問題解消にも貢献するとマケイン議員はレポートで指摘しています。つまり、操縦が5世代機ほど難しくない、操縦者養成が簡単と考えている様に読み取れます
無人機操縦者を操縦者の「階層ヒエラルキー」で下層に(無言で)位置付け、処遇などに配慮しなかった結果、大量の退職者を出した「二の舞」になりそうな気がします
ところでマケイン議員の提案・・・最終的にはF-35総調達機数を削減するが、今後5年間はその結論は出さず、どんどん製造して当面の戦闘機不足を穴埋めする・・・ですが、何とも都合の良い八方美人なご提案です。
大統領選挙期間中、同じ共和党内に居ながら、トランプ氏とマケイン氏は「大げんか」状態だったわけですが、この案は米軍需産業の雇用を守り創出する案であり、トランプ氏への「すり寄り感」も感じます。強制削減を規定した予算管理法(BCA)の即時破棄を訴える姿勢も、トランプ政権と同じ方向です
一方で中国の脅威を踏まえ、F-22やF-35の限界を指摘し、新たな制空の概念やアセットの必要性を指摘している点は流石に「上院軍事委員長」です。
もう一つ本提案書では、提言の順序が、海軍、海兵隊、空軍、陸軍、特殊部隊、核戦力、BMD、宇宙、サイバー・・・となっており、この辺りに思い入れ度合いが反映されているようです。
今後この様に、反トランプ戦線に加わっていた方々は、様々なしがらみの中で自らの道を模索されるのでしょう・・・。主要なシンクタンク関係者も軒並み「反トランプ」でしたから、その動向も生暖かく見守りたいと思います
軽攻撃機関連の記事
「米空軍が検討を開始」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-07
「有力候補:A-29映像解説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-03-02
「泥沼化:アフガン軽攻撃機の選定」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-11-23
関連の記事
「ケンドールが航空機投資を語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-25
「Penetrating Counter Air検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-30
「航続距離や搭載量が重要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-08
「2030年検討の結果発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-02