米国のTPP離脱を安全保障関係者が嘆く

Reagan National.jpgレーガン財団が主催した「Reagan National Defense Forum」の議論から、対中国を念頭に置いたアジアでの安全保障枠組みの議論をご紹介し、NATO的な枠組み形成が難しい中で対応を模索しつつ、米国のTPP離脱を米国内外の安保関係識者が嘆く様子をご紹介します。
ハリス太平洋軍司令官はアジアではNATOの様な枠組みは成立しえないので柔軟な関係国協力が重要だと主張し、シンガポール国防相は軍事力の限界に言及して米国のTPP離脱を嘆き共和党系シンクタンクAEIのオースリン氏は日本等との協力強化を訴えつつ、貿易協定の重要性を中国経済下降も見据えた対応準備の必要性も絡めて説いています
3名の立場やいい振りは異なるモノの、主張を単純化すると、NATOのような枠組み構築が難しいアジアでは、軍事以外の多様な手段で対中国に備えるべきであり、TPPはその重要な手段であり、中国の増長と急降下の両方に備える意味で重要なのに・・・と嘆き節に聞こえます
ハリス大将はアジア版NATOの可能性を否定
Harris7.jpg●米国がアジアリバランスを進める過程で、人によってはNATOのような機構がアジアにも必要だと主張するが、実現可能性のある策だとは思わない
●なぜなら、NATOが形成できたのは、ソ連という明確な敵が存在し、ソ連に対抗する国が結びつく必要性が共有されていたからである。一方で、中国に対するアジア各国の思惑は国毎に複雑である
アジア各国の間には、単一のはっきりした共通の敵が存在しない中国はアジアの一部となっており、そのアジアは米国経済活動の一部であるからだ。私はアジア版NATOを想像できない
●米国防省は、アジア版NATOの代わりに、多国間の安全保障ネットワーク開拓に焦点を当て取り組んでいる。例えば、日米韓の3ヶ国軍事協力や、東南アジアの対テロ協力がこれにあたる
●更に、例え軍事同盟にならなくても、ASEANは広範な協力の枠組みを提供してくれると述べ、特に海賊対処や誘拐対処に有効だ。
●また、カーター国防長官が9月29日に言及した「リバランス第3弾」の、「地域国家によるネットワーク化された安全保障、ネットワークとネットワークの融合」「新たなレベルのパートナー関係を見いだす」につながる
トランプ新政権により修正もあろうが、このビジョンを進展させるため、2018年度予算案に数個の取り組み予算を計上している。
シンガポール国防相(Ng Eng Hen)は
Ng Eng Hen4.jpg●発展する中国の封じ込めは可能ではないし、戦略的に必要とも思わないが、米国は軍事力だけに頼って中国を封じ込めようとしても不可能だと認識すべきだ
米国は(中国以外のアジア諸国と)貿易面で発展的な関係に注力することが必要だったはずなのに、この点で米国のTPP離脱はシンガポールにとって極めて残念なことだ
●米国のアジアでのプレゼンスが軍事的になものに偏ることは構造的にもろく、TPPは確固として目に見える関与を示し、多側面でのアジアとの関係を形成する圧倒的な力となり得たのに残念な状況だ。中国は独自に多面的な関係強化を図っているのに・・・
●種々の統計資料が示すように、中国はアジアのほぼ全ての国にとって1位か2位の貿易相手国で、米中の関係も強いモノとなっており、「中国は今や、貿易、金融、安全保障面で世界システムのリーダーであると統計が示している」と結んだ
AEIのAuslin研究員は
Auslin5.jpg●(シンガポール国防相の視点を発展させ、)中国経済は今後機能不全を示すようになり、新たな地域諸国の課題となろう。地域諸国が成長する中国を課題として議論しているように、機能不全の中国問題にも直面することになる
●そして、成長する中国への諸国の懸念と対処は、機能不全中国への対処には活用できない
●近々出版の著書「The End of the Asian Century」でも述べているが、アジア版NATOはアジアには不向きである
●米国政府や太平洋コマンドはその点を良く理解し、多国間協力関係の構築に取り組み、ASEANのような枠組み活用に取り組んでいる
●更にやれることは、最初に、地域の貿易協定で遅れを取らないことの他に、日本とのような同盟関係を効果的にして利害共有のコミュニティーを構築すること
●次に、この様な地域の関係を結びつけ、東シナ海と南シナ海とインド洋を別々に扱わないことである。全ての地域を関連付け、「アジアの地中海」と捉える視点が重要
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最近、ティラーソン氏の国務長官指名を受け、米国がロシアと組んで対露包囲網をとか言われていますが、経済的に中国と強く結び付いたアジア全部を包囲する羽目になりそうな気がして心配です。
TPP-Graphic.jpgAEIのAuslin氏の発言の解釈や訳に自信がなく、TPPへの態度もはっきり表現されてはいませんが、共和党系シンクタンク所属ですのでTPPには反対なのかも知れません。
カーター国防長官はTPP協力推進派で、国防省のリバランス関連特設webページのトップに「TPPの重要性」を示す解説図(左図)を掲げるぐらいでした。
まぁ・・気持ちは分かりますが、国防省がTPPをそこまで持ち上げると、軍事面での弱点を認めることになるから控えるべきだと思いましたが、米国のTPP離脱は残念です
NATOのような枠組み構築が難しいアジアでは、軍事以外の多様な手段で対中国に備えるべきであり、猫の手でも借りるべきだと思います
トランプ政権が立ち向かう国防省の課題
「サイバー戦を巡る課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-14
「新政権の国防予算はF-35が鍵」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-08
「規模の増強は極めて困難」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-10
「現在の対テロ7原則を確認」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-07
「比が米軍機の利用拒否!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-11
「北朝鮮でなく中国の問題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-28
「新政権の国防予算はF-35が鍵」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-08
「国防省改革はどうなる?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-01
「中露を抑止するには」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-05
「F-35巡り国防省で内紛」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-09
「Mattis氏が国防長官へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-02

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