1日、広東省珠海で開幕した「第11回中国国際航空宇宙博覧会」で、中国空軍のステルス戦闘機?「J-20:殲-20」が初めての一般公開飛行を行いました。
改良を重ねつつ、試作機が5番機か6番機まで製造されていると言われていますが、各種報道から初飛行の様子を振り返ります
そしてこれを契機に改めて、ゲーツ国防長官(当時)の言葉、「米国に敵対しようとする国は、戦闘機VS戦闘機、艦艇VS艦艇などの通常兵器競争を米国に仕掛けて、破産する道を選ぶだろうか?」との言葉に思いを致し、「J-20騒ぎ」で悪のりするであろう戦闘機命派を嘆き、日本への脅威の本質である弾道・巡航ミサイルやサイバー・宇宙・電子戦の脅威を訴えておきたいと思います
各種報道より「J-20」初披露の様子
●公開飛行は、同博覧会の開幕式直後に行われた。2機の「J-20」が会場上空に姿を現し、1機はすぐに飛び去り、残りの1機は旋回して再度、会場の前を低空飛行で通りすぎ、急上昇して上空に消えた。僅か約1分間の初お披露目だった
●「J-20」は四川省で開発が進められ、2011年1月に初の試験飛行を行った。米軍のステルス機F-22やF-35に似た形状や装備が外観上の特徴から、米軍機(サイバー戦で情報入手)を模倣してしているのでは、との見方が絶えない
●低空で飛行しなかったにもかかわらず、飛行時の騒音が著しく激しかったと伝えられているが、以前の試験飛行より想像以上に「operational」だったとの印象を持つ者も居た。
●「weapon bays」も閉じたままだったが、モックアップにあった「EOTSのようなunder-nose pod」が確認された
●胴体下には、F-22やF-35が装備するような「レーダー反射面積増幅器」を装着し、観客がRCSを測定することを防止していた
●J-20以外では、専門家が南シナ海の埋め立て島への物資補給用ではないかと分析している新しい大型のAG600 flying boatが展示されている。中国側は、同機を捜索救難と消防用だと主張している
大局を見誤るな:J-20初公開に思う
●ゲーツ国防長官(当時)の言葉、「米国に敵対しようとする国は、戦闘機VS戦闘機、艦艇VS艦艇などの通常兵器競争を米国に仕掛けて、破産する道を選ぶだろうか?」の意味を再度考えてみたい。この言葉は2009年のフォーリン・アフェアーズ誌に掲載された論文「A Balanced Strategy」で使用され、その後も多少表現を変えつつも、繰り返しゲーツ長官が訴えていた言葉である
●別の場でゲーツ氏はこの言葉を説明するように2011年当時、「中国のステルス機はゼロだが、米軍は200機以上保有している(現在はF-35運用開始を踏まえ、ゼロ対300機とも言える)。また海軍艦艇の総トン数は、世界1が米軍だが、世界2位から14位まで合計してやっと米軍と同規模となる。
●しかも「世界2位から14位のうち、2ヶ国以外は全て米国の同盟国か友好国だ」、更に「米海軍が保有する艦艇搭載の精密誘導兵器の数量は、世界2位から14位の合計の2倍以上だ」と述べ、中国の立場になれば、通常兵器で米国と正面から戦おうなどとは考えないだろうと喝破した
●ゲーツ氏のようにズケズケとものを言う幹部は今はいないが、米国防省が毎年発表する「中国の軍事力」レポートは、中国が高列度の短期戦で地域での紛争に勝利する事を目指しており、そのため弾道・巡航ミサイルで作戦基盤を緒戦で叩き、サイバー戦や宇宙戦や電子戦で米軍が依存するネットワークを寸断麻痺させる事を目指し、着実に力を蓄えていると毎年記述している。
●「中国の軍事力」レポートに限らず、米国の主要シンクタンクもこの様な視点で中国の軍事脅威を捉えており、最近米空軍が取り組んでいる「2030年代の制空検討」においても、速度や機動性と言った空中戦能力よりも、遠方からの活動を意識した航続距離を重視する方向性が示唆されている
●中国空軍が「J-20」に何を期待しているのか定かではないが、日本の戦闘機命派が期待しているような空中戦能力を追求しているとは考えにくく、高価値航空目標攻撃や突破型戦闘爆撃機的な役割を狙っていると考えるのが自然だろう
●今後この「J-20」をどのように日本の戦闘機命派が評価するかは、彼らの脅威認識の「リトマス試験紙」となり得る。
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補足することはありません
末尾にご紹介した「ロバート・ゲーツ語録100選」がオススメです! 安全保障感覚の「体幹強化」にどうぞ!
論文「A Balanced Strategy」
→http://www.comw.org/qdr/fulltext/0901gates.pdf
→https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2009-01-01/balanced-strategy
関連の記事
「Balanced Strategyを振り返る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-11-27
「戦闘機や艦艇に囚われている」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-04-09
「2016中国の軍事力」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-15
「2015年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-17
「2014年版」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-06-06
「大幅改良J-20が初飛行」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-03-20
「IISS:J-20は大した事ない」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-03-08
「映像と評価中国ステルス機J-20」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-12-30
ロバート・ゲーツ語録100選
→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-05-19