ズムウォルト級ミサイル駆逐艦を学ぶ

Zumwalt.jpg今頃?・・・感はありますが、今年5月に米海軍に引き渡され間もなく運用開始予定の「最高峰の水上戦闘艦」と期待が「高かった」ズムウォルト級ミサイル駆逐艦(Zumwalt)を少しお勉強することにします
米軍の装備開発にありがちな、当初遠大な構想で開発が始まったものの、途中で開発に息詰まって経費が増大、最終的に中途半端に出来上がって高価なため調達数が一桁削減・・・の典型例がこの巨大駆逐艦です
本日は、まず当初計画されていた「概要や特徴」をご紹介し、映像の後、数々のつまずきに触れたいと思います
概要や特徴とご紹介
排水量15000トンで、大型イージス艦タイコンデロガ級9500トンより遙かに大型
●当初は30隻以上の建造が計画されながら、現在では僅か3隻で終わる悲しい水上艦艇
●コンセプトは、ステルス性で沿岸部に接近し、艦砲とミサイルを陸にたたき込む「対地駆逐艦
Zumwalt3.jpg●ステルス性を追求し、レーダー波を上に反射して逸らすためのもので「タンブルホーム船形」を採用。レーダー反射面積RCSは、従来イージス艦の1/50で小型漁船程度
エンジンでスクリューを直接回さず、電気を造ってからモーターでスクリューを回す。手間があるが、モーターでスクリューを回すため、水中に響く騒音も少ない
●既存の艦艇と桁違いの発電能力故に、大電力を装備する機器の搭載が可能で、将来的にはレールガンの搭載も想定されている
●先進的な艦制御システム「TSCE-1」で、艦内の各種システム全てをネットワーク上に連接した先進的な構成。艦内ネットに接続した自動消火システムなども装備され、人員削減に大きく貢献
WW2後、補助的な役割だった艦砲のイメージを、新型砲「155mm先進砲システム」を2門で一新。従来の127mm砲と比べ、威力射程共に大きく向上しており、強力な対地攻撃が可能。通常弾の他にロケットアシスト&GPS誘導のLRLAP誘導砲弾(射程154km)も使用可能。
●沿岸戦闘艦LCSや大型巡視艇カッターで主砲とされている57㎜速射砲を、「副砲」として2門装備している
新型ミサイル発射装置(Mk57 PVLS)を採用。既存のMk41VLSよりも大型なミサイルが使える上、ハード的には既存の各種ミサイルに対応し、二重構造の船体の装甲の施された内殻と外殻の間に設置されるため、被弾・誘爆しても被害は少ない

画期的な戦闘艦のはずだったが・・・
遠距離と近距離の2種類のレーダーが搭載予定だったが、遠距離レーダーの開発が不調で搭載取りやめ
●先進的な艦制御システム「TSCE-1」のシステムの開発の失敗。イージスシステムの膨大なプログラムの統合に失敗。
Zumwalt2.jpg●前述のレーダー開発の失敗もあって艦隊防空ミサイルSM-2と弾道弾迎撃ミサイルSM-3の搭載が中止。経費削減のため、対潜用のアスロックの搭載まで中止された。
●また57㎜砲も予算の都合で、対水上のみの30㎜機関砲にダウングレードされることがに決定。
●結果、ミサイルは対地攻撃用のトマホークと個艦防空用のESSMしか使えない
●先進技術の追求しすぎと、開発段階でのトラブルで価格は高騰。そのお値段は一隻あたり50億ドル。日本円にして約5000億円である。
●価格高騰などで調達隻数削減後、当初は2隻のみの建造とされたが、造船所の仕事確保のため、3隻目の建造も決定された。
●沿岸戦闘艦LCSは頼りないし、古いタイプのイージス艦の後継艦が未定だが、比較的新しいアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦のさらなる追加建造でつなぐ方向か?
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B-2Whiteman.jpg米国防省の「グダグダ」な兵器開発の歴史に「悪い意味」で燦然と輝くのが、B-2爆撃機、F-35戦闘機、沿岸戦闘艦LCS、シーウルフ級攻撃型原潜などですが、このZumwalt級ミサイル駆逐艦も堂々仲間入りです。
運用体制確立後、どこで使用するのでしょうか? 東シナ海や南シナ海に登場するのでしょうか? 
「太平の眠りを覚ます上喜撰(蒸気船)たった4杯(隻)で夜も眠れず」ぐらいの効果を発揮してくれることを期待したいのですが・・・
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ロバート・ゲーツ語録70
(ロシアでの講演で、)軍事官僚制の2つの病巣、つまり兵器システムの継続的価格高騰と納期の遅延、を危惧する点でセルジュコフ露国防相と意見が一致した→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-28

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