3日、CSISで講演した米海軍トップのJohn Richardson海軍作戦部長(CNO)は、その示す意味が曖昧な「A2AD」との用語の使用を米海軍内で禁止すると語りました。
同大将は、CNOに就任直後に、100年以上も米海軍人の間で使用されてきた「sailorやpetty officer」との呼称を止めさせ、「operations specialists」とか「gas turbine system technicians – electrical」等の呼び名への変更を進めてきた「用語にこだわりのある人物」です。
以上の経緯もあり、今回の「A2AD」使用禁止を斜に構えて冷ややかに見る向きもあるようですが、その理由に耳を傾けるのもお勉強の一つと考え取り上げます
3日付Defense-News記事によれば
●「改めて皆さんにも問いかけたい」と語り始めたRichardson海軍作戦部長(CNO)は、ペンタゴンやワシントンDCで飛び交う様々な短縮用語が、本来の意味から離れて使用されたり、元の名前より広く知られるようになる事がしばしばあると指摘した
●そしてその様な短縮用語が、使用する人によって意味がまちまちで、同じテーブルで議論していても議論がかみ合わないケースが決して少なくないとも指摘した
●そして同大将は、「A2ADとの言葉の使用を控えようと思う」と述べ、用語A2ADが様々な意味で理解され自由に使用されており、意思疎通に必要な正確な定義が不足して課題が生じていると表現した
●例えば、「denial」との言葉は既に確立した状態を想起させるが、作戦上の実態はより複雑であろうと述べ、また戦史上でも決して目新しい事を指しているわけでないと語った
●また、「A2AD」が防御を意識させ過ぎると感じており、現実における防御と攻撃の混在両用とは異なったイメージを与えがちな点も不適切だとCNOは語った
●更に、「A2AD」は2000年代から好んで使用されているが、今日のより悩ましい課題、更に高度化している敵ミサイルや敵ISR等の最新の脅威を見逃す可能性を懸念もしていると表現した
●しかしRichardson大将は、「A2AD」の換わりとなる言葉や表現を示さず、「申し訳ないが、代替の表現を具体的に持ち合わせていない」「しかしワンフレーズの短縮表現が混乱を生み、明確さを欠くことを指摘しておきたい。その様な用語を使用する代わりに、より具体的な戦略や能力について議論すべきだと思う」と語った
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CSISが掲載の講演動画
→https://www.csis.org/events/maintaining-maritime-superiority-admiral-john-richardson
米海軍の内部に限った用語「A2AD」使用禁止だと思いますが、一理あるような気がしますし、「より具体的な戦略や能力について議論すべきだ」との指摘は、脅威の最前線にある日本の国防関係者に向けられた言葉と言っても過言ではないでしょう。
「A2AD」と語っていれば知ったかぶりが出来た時代は過ぎ、組織を動かす少佐や中佐レベルが骨身に染みて「脅威の変化」を感じている必要があるのですが、依然として自衛隊トップレベルが「防衛白書」レベルの「セピア色の脅威認識」で部下に語っているようでは、組織の意識改革は進みません。
Richardson大将に言われるまでもなく、「A2AD」使用禁止が必要だとは言いませんが、より具体的に脅威と対処を議論する必要性を強く感じます
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