新思考への転換に異例人事
戦闘機族ボスの長老化を阻止し、改革前進の布陣か
8日カーター国防長官は、次の米空軍戦闘コマンド司令官と同宇宙コマンド司令官の候補者を発表しました。正確には、オバマ大統領が候補者としてのノミネートを議会に通知し、議会承認を依頼したことを発表しました
発表自体には名前と現在のポストが紹介されてるだけで、何のコメントも含まれていませんが、まんぐーすの解釈では、米空軍司令部で脅威の変化を踏まえ大きな作戦思想転換を含む改革案を練ってきた人材を、実働部隊のトップに据え、旧思考に固執しがちな現場の意識改革を促進する人事です
米空軍戦闘コマンド司令官も同宇宙コマンド司令官も、これまでは大ベテランで退役直前の大将が就くポストで、例え空軍参謀総長が新たな方向性を打ち出しても、それぞれの「族の意向」や「職域防衛意識」を持ち出し、保守的な守りの姿勢を取る傾向があったポストです。
そこに中将である実質重視の人材を大将に承認させて配置する・・・これを激震人事と言わずに何と言いましょうか?
まず、8日付カーター国防長官の発表
●米空軍戦闘コマンド司令官(commander, Air Combat Command)に、現在は米空軍司令部の戦略計画&要求部長であるJames M. Holmes中将を大将への昇任させて配置する
●米空軍宇宙コマンド司令官(commander, Air Force Space Command)に、現在は米空軍司令部の作戦部長であるJohn W. Raymond中将を大将への昇任させて配置する
この人事案に対するまんぐーすの解釈
●現在の空軍戦闘コマンド(ACC)司令官は、日本の叙勲(旭日大綬章)を受けたカーライル大将です。本人事が成立すれば、カーライル大将は年齢からして退役になりますが、現時点では未発表です
●ACC司令官は戦闘機族のボスと言われ、F-35、F-22、F-15、F-16、A-10、更に攻撃型無人機も配下に置き、普段から戦い方を研究し、訓練させて部隊を育成し、任務に応じて地域戦闘コマンドに差し出す任務を帯びています
●従って、空軍司令部が机上で考えたプランでも、現場の事情を持ち出して軌道修正が実質可能で、改革案を「骨抜き」にすることさえ不可能では無いと考えられます
●米空軍は今、1年間の集中検討を経て5月に打ち出した「Air Superiority 2030」報告の具体化に着手しており、「米空軍の辞書には第6世代戦闘機との言葉は無い」との姿勢で、「空中戦性能ではなく、航続距離や搭載量を重視」する新思考の次期制空アセットを導入する決意を固めています
「Penetrating Counter Air検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-30
「航続距離や搭載量が重要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-08
「2030年検討の結果発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-02
●次期ACC司令官候補のHolmes中将(F-15操縦者)は、空軍司令部で長期計画を仕切ってきた人物であり、当然「Air Superiority 2030」報告作成に深く関与してきた人材であることから、現場のわがままを抑え、新思考で「戦闘機族」を導くのに最適な人物として指名されたものと考えられます
●推定58歳(防大25期相当)で決して若くは無く、この時点での大将就任は遅い昇任ですが、正に制空アセット改革に相応しい人物としての「白羽の矢」が立ったのでしょう
宇宙コマンド司令官については
●次期宇宙コマンド司令官候補のRaymond中将は、パイロットではなく宇宙任務を担当してきた人物であり、パイロットが占めてきた空軍司令部作戦部長職に就いたこと自体が大サプライズでしたが、米空軍がサイバーと宇宙問題を重視する象徴として捕えられてきました。
●Raymond中将(推定55歳)の前職は宇宙コマンドの中核部隊である衛星など全宇宙アセット運用を担う第14空軍司令官であり、危機感迫る宇宙ドメインをその道の「プロ」に委ねる人選でしょう
●また同時に、同中将の最初の仕事がICBM運用士官である事から、不祥事が相次ぐICBM部隊に希望を持たせる意味合いも含まれているような気がします
誤解防止のため付言しますと、現在のACC司令官カーライル大将も宇宙コマンド司令官Hyten大将も立派な人物で、決して改革に後ろ向きだったわけではありません。
むしろ、両名とも次期空軍トップの最有力候補に名前が挙がっていた人物です。だからこそ後任者選定が大変で、しかも空軍にとって最重要な「制空アセット改革」と「危機感溢れる宇宙ドメイン担当」の後任者ですから、従来の流れ拘らない人物重視の人事が行われたのでしょう
Work国防副長官が、政権交代後も「第3の相殺戦略」等の改革を頓挫させないため、政権交代の影響を受けない軍人人事に知恵を絞り、改革派を抜擢していると語っていますが、その流れの一環と見て良いでしょう。期待が持てますし、任期残りが少ないはずの国防長官や副長官の、途切れない情熱に頭が下がります
戦闘機の移動とF-35導入にしか関心がなく、国際軍事情勢への認識不足で重要な部分に目が向かない日本空軍のリーダー達には、このニュースの意味は理解できないでしょうねぇ・・・・むなしい(ため息)
脅威の変化に対応する改革への決意
「相殺戦力等の改革を如何に引き継ぐか」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-04
「統合参謀本部副議長が改革を語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-27
将来の制空アセットに関する検討
「Penetrating Counter Air検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-30
「航続距離や搭載量が重要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-08
「2030年検討の結果発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-02
「NG社の第6世代機論点」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-17
「CSBAの将来制空機レポート」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-15-2
宇宙関連の記事
「Red-Flag演習指揮官が宇宙幹部」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-19
「民間企業も交え大規模演習」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-05
「宇宙改革法案」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-13
「衛星小型化は相殺戦略でも」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-01
Holmes中将の経歴
→http://www.af.mil/AboutUs/Biographies/Display/tabid/225/Article/108279/lieutenant-general-james-m-mike-holmes.aspx
Raymond中将の経歴
→http://www.af.mil/AboutUs/Biographies/Display/tabid/225/Article/108479/lieutenant-general-john-w-jay-raymond.aspx