米軍における電子戦への人工知能応用研究

EW Cognitive4.jpg8月29日付Defense-Newsが、デジタル化等によりますます高度化する通信やレーダー機材への妨害能力を高めるため、また敵妨害に対する自己防御能力を高めるため、米国防省の技術研究機関DARPAが企業と協力し、人工知能を活用した「Cognitive Electronic Warfare:認知電子戦」技術開発に取り組む様子を紹介しています
DARPAではこんな事を研究し、技術や情報を米軍に提供しているとの話で、米軍内で実用化に向けどのように検討が進んでいるのか等は事柄の性格上から不明ですが、「Cognitive EW」との用語と共に、なかなか耳にしない関係者の証言ですのでご紹介します
8月29日付Defense-News記事によれば
EW Cognitive.jpg現在の電子戦技術は、通信やレーダー技術が飛躍的に進歩している中でも、基本的にベトナム戦争当時と変化していない。DARPAの電磁波技術分野の副部長であるYiftach Eisenbergはそう表現した
●基本的に、相手システムの電波周波数や波形や変化パターン等の情報を収集して分析し、相手の脆弱点を探り、妨害方法を検討して多様な戦術を手順書(playbook)にファイルしていく流れである
しかしこの手法は、相手がシステム開発に長時間をかけ、同システムが安定的に長期間使用されル事が前提だが、デジタル化や再プログラム技術で相手システムに根本的な変化が生じている中、変化を迫られている
●Eisenberg副部長は、「予期しない相手システムが生み出す電波方式や脅威に、迅速に対処できる態勢の確立が必要だ」と述べ、未知の周波数や波形に対処するために人工知能の活用を研究していると語った
●細部は非公開だが、人工知能を活用した「Cognitive EW」電子戦や妨害対処は一般的に、機械学習のアルゴリズムを活用して相手の弱点を探る脅威分析を行い、それを基に対処の確実性を高める流れを執っている
●関連企業BAEシステムのJosh Niedzwiecki担当部長は、「航空機を自己防御する場合、妨害源の出力、周波数、周波数帯域などを迅速に収集し、過去の事例や教訓を踏まえたアルゴリズムで妨害対処法の最適解を導く。そしてそこ過程や結果からも自動的に教訓を学んで蓄積する」と説明した
2つの柱「BLADE」と「ARC」
Electronic Warfare.jpgDARPAは「Cognitive EW」研究を2010年から開始し、2つの柱となる計画を進めている。通信への妨害を目的とする「BLADE:Behavioral Learning for Adaptive Electronic Warfare」と、レーダーを狙う「ARC:Adaptive Radar Countermeasures」の2つである
●今年2月、対通信のBLADEはロッキードとレイセオンと協力し、開発した装備を航空機に搭載し、将来も見据えた多様な通信機材に対し妨害効果の確認試験を行った。試験は成功を収め、計画は軍に引き継がれた
ARCは2018年の飛行試験を目指して開発が続いている。BLADEとARC両方を監督するDARPAのPaul Tilghman氏は、「未知のレーダーに対処させ、その場でリアルタイムに対処法を案出するようなものにしたい」と語っている
米軍がどのように「Cognitive EW」を活用しようとしているのかは不透明である。しかし例えば米空軍は、しばしば電子戦の重要性を強調し、「Air Superiority 2030」報告でも指摘している。7月に「Cognitive EW」関連の情報提供要求を企業に発出しているが、こちらを含め細部は非公開である。
●人工知能の電子戦への活用には様々な可能性があるが、妨害対処法の分析アルゴリズムに注目が集まりすぎていると指摘する意見もある。前述のDARPA高官Tilghman氏などは、計算能力(computing horsepower)がより重要だと主張している
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EW Cognitive3.jpg「Cognitive」は辞書で「認知の」との意味ですが、「Cognitive EW」との熟語が何か特別な意味を持つのか承知していません。人工知能が絡むと「Cognitive」になるのでしょうか???
別の視点ですが、例えば米海軍はステルス性だけで強固なA2AD網を突破・生存できるのは今後10年程度だろうと見積もりながら、NIFC-CA構想では、F-35C型を最前線のセンサー的に活用し、兵器発射母機としてFA-18を想定しています。
そしてFA-18の残存性に関しては、「同機の搭載兵器が有効になる距離まで進出できるよう、ボーイング社と米海軍は機体に必要な措置を施している」と自信ありげな発言を、米海軍高官が2014年1月時点でしています
このような自信ありげな過去の発言の背景には、本日ご紹介した「BLADE」や「ARC」のような装備開発があるのでは・・・と想像してしまいます
「ステルス機VS電子戦攻撃機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-22
「米海軍のNIFC-CAとは」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-26
米軍や関係研究機関は、厳しい予算の中でも、技術優位を守るため懸命の努力を続けています。
米国防省や米軍との研究開発予算規模の違いを声高に叫ぶ防衛省や自衛隊関係者、更にそのOBがたくさんいますが、米国の莫大な研究費の根っこには、作戦環境の変化を敏感に学び感じる指導者層や専門家、前線の要求が存在します。
日本は対中国の最前線であるはずですが、「作戦環境の変化を敏感に学び感じる」人材が不足しています。特に高級指揮官クラスに・・・。
その背景をRMA研究者のポーゼン(Barry Posen)は、3つの視点から説明しています
「軍事組織は自己改革不能」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-02 より
第一に、軍事組織は、不確実性を低減させることを第一の目的としており、既存のやり方を大きく変化させることはない。
第二に、軍事組織は極めて階層的であり、RMAを促進するボトム・アップの情報の流れを妨げる。
第三に、軍の幹部は既存の戦闘方法に熟練していることによって昇任したのであり、それを変化させるような動機は小さいということである。
米軍電子戦に関する記事
「電子戦を荒野から取り戻す」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-17-1
「露軍の電子戦に驚く米軍」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-03-1
「海兵隊司令官:基本を学べ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-10
「ステルス機VS電子戦攻撃機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-22
「EA-18Gで空軍の電子戦を担う」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-08
「米陸軍電子戦:失われた15年」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-16
「航空偵察部隊の活動」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-21
「ウクライナで学ぶ米陸軍」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-02 
「緊縮耐乏の電子戦部隊」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-01-29-1

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