26日、カーター国防長官が2カ所目の民間技術迅速取り入れ実験事務所(DIUx:Defense Innovation Unit Experimental)をボストンに開設したと発表し、同事務所組織の改革や具体的な成果について語りました
同長官は、予算等が限定される中で中国やロシア等に対処するため、民間企業やベンチャー組織に生まれつつある革新的技術を迅速に国防分野に取り入れ、官僚機構の鈍重な手続きで腐らせず、また民間の有能な人材を国防省と結びつけるため、様々な取り組みを行っています。
その一つがこの「DIUx」であり、シリコンバレーに最初の事務所を立ち上げています
また「これ以上の場所は考えられない」と長官が表現するボストン中心地での事務所開設にあたり、この「DIUx」は実験組織であり、ここでのノウハウが国防省組織に吸収されて内製化し、「DIUx」が発展的に解消されることが目標だと語っています
本日は長官が語った「DIUx」の組織構成と、初期的な成果と試みの幾つかをご紹介します。
26日カーター長官はDIUx組織改編について
●シリコンバレーと並ぶ技術革新ハブであるボストンに、Raj Shah氏を事務所長に迎えて2番目の「DIUx」を開設できて素晴らしい。更に「DIUx」を3つの下部組織Teamに分ける組織改編で運用を発展させたい
●1つ目は「Engagement Team」で、国防省や軍関係者を企業に紹介するだけでなく、民間の起業家達に軍が抱える問題を紹介して解決アイディアを募る役割を持つ
●2つ目は「Foundry Team」で、新しい技術を成熟させ国防省ニーズに適合するよう、企業等と協力していく役割を持つ。兵士を企業に送り込んだり、企業技術者を国防省機関に招いたりして試験やプロトタイプ試作に導く
●最後は「Venture Team」で、3つの中では最も規模が大きく、生まれつつある最新の革新的技術を見極め、国防省の様々なニーズへの適用可能性を精査するチームである
●この「DIUx」に明らかな成果がないと指摘されることがあるが、この点についてCNASのBen FitzGerald研究員は、「彼らは仕事をしており、技術導入や資金の動きが具体的に議論されているが、最終契約が他機関を通じて行われることが多い(ため目立たない)」と指摘している
●また「事業が容易に進むよう、DIUxはお膳立てを整え、陸軍の契約専門機関(Army Contracting Command)が後を引き継ぐ事がモデルケースになっている」と説明し、DIUxの成果を讃えている
様々な特長とアイディア
●また同陸軍機関と「DIUx」が共同で立ち上げた「Commercial Solutions Opening」とのwebサイトは、シリコンバレーのベンチャー企業が慣れ親しんだ投資家を募るような仕組みになっている。
●まず国防省側がある案件の解決法を募集するとの情報を同webサイトにアップし、関心ある企業が同案件に解決法やコメントを送り、国防省側がコメント等を精査して企業等と具体的な話に入る仕組みである
●案件の対処方向を特定したら、「DIUx」は60日以内に事業化や更なる研究開発のための予算獲得に動くことが出来る仕組みになっている。
●カーター長官は「このアプローチは既に熱狂的な支持を集め始めている」「各軍種も戦闘コマンド司令官も国防機関もこの迅速性と柔軟性を好んでおり、また起業家も官僚機構での手続きや知的財産権保護について相談できるDIUxの存在を喜んでいる」とアピールした
●既に15個のプログラムが進行中で、最初に契約に結びついたのは「Halo Neuroscience」との企業で、ヘッドフォーンのような装置で脳に作用し、学習効果を高める研究が進んでおり、特殊作戦部隊チームがその効果確認に協力している
●また関係者は、事業契約という形でなくとも、「DIUx」が民間企業と国防省の人材の橋渡しをする役割も大きいと評価している。
●例えば米海軍の学校が計画した「無人機の群れ」を操作する24日のイベント「Hack the Sky」は、「DIUx」の仲介も有り、320名もの官民の関係者が一同に集まり、かつて無い多様な人材の交流会となった
●前述のFitzGerald研究員は、「この様なイベントこそDIUxが牽引すべきwin-winな試みで、シリコンバレーと国防省の相乗効果を生む切っ掛けとなるものだ」と高く評価している
●カーター長官は発表に際し、「仮にDIUxが成功し、国防省と多様な企業の連携を活性化する触媒となれたなら、その手法を国防省が吸収して国防省自身がその役割を引き継ぐべきだ。DIUxはその道筋を試行しながら検証し、何が正しいかを見極めて国防省の業務要領に生かすべきだ」と狙いを改めて語った
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カーター長官は「DIUx」以外にも、「Force of Future」取り組みで人材確保や育成や引き留めを目指しており、これらトップ主導の施策に官僚機構が追随出来ていないとの批判もありますが、進む方向は正しいですし、大いに期待したい真っ当な取り組みだと思います
日本に直ぐ導入できる訳ではありませんし、ベンチャー企業を支える風土が不足している閉塞感が日本の現状かも知れません。また、安全保障や軍事への協力に消極的な企業や研究者も多く存在します。
それでも日本の若手の皆様には、ぜひこの様な試みがある事を知って頂きたいと思いますし、カーター長官が来年1月までの任期と判っていながら、懸命に前進する姿も見て頂きたいと思います
DIUx関連の過去記事
「2つ目の場所とリーダー公表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-14
「技術取込機関DIUx」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-25
カーター長官の種々の取り組み
「CNASが課題を指摘」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-02
「繊維素材開発の官民連合」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-05
「人材確保・育成策第2弾」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-10
「人材確保・育成策第1弾」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19
「FlexTech Alliance創設」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-31
「サイバー戦略事前説明」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-19
「スタンフォード講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-25
次期政権に技術革新をどう引き継ぐか?
「Work副長官が仕込みを語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-04