米国防省の推薦:宇宙戦書籍「Ghost Fleet」

Ghost Fleet.jpg4日付Newsweek誌電子版が、米国防省の推薦図書となった宇宙戦を描写した書籍「Ghost Fleet」を取り上げ、中国やロシアの宇宙戦への取り組みや、米国の対応について紹介しています。
冷戦後、宇宙を独断場と見なしていた米国が15年以上に及ぶアフガンやイラクでの戦いに挑む間に、宇宙での戦いを「米国の弱点」を捕らえ、宇宙アセットへの攻撃手段を磨いてきた中国やロシアへの対処が大きな課題となっている様子を描写しています
話題の2015年夏出版の書籍「Ghost Fleet」(http://www.amazon.co.jp/Ghost-Fleet-Novel-Next-World-War/dp/0544142845)は、サイバー戦と宇宙線を交えた「宇宙での真珠湾攻撃」を中国との戦いの緒戦として描き、宇宙に依存し、弱点をさらけ出している現状への警鐘を鳴らしています
記事は書籍の細部には触れていませんが、宇宙を巡る現状の理解を深めるため、つまみ食いで記事をご紹介いたします
4日付Newsweek誌電子版によれば
Ghost Fleet4.jpg書籍「Ghost Fleet」は、上海所在の中国軍サイバー部隊が米軍GPSネットワークに侵入して信号を撹乱する「宇宙での真珠湾攻撃」から始まる。精密誘導兵器を使用できなくなった米軍は大混乱に陥ることになる
●次に同書籍は、高度200nm上空の中国衛星から30数個の米国衛星をレーザー兵器で攻撃する中国人飛行士を取り上げ、通信や情報収集手段を奪われた米軍が第2次大戦レベルに脆弱化する様子を描写している
●上記のシナリオはフィクションではあるが、米軍が1発も発射しない内に無効化される可能性を示し米国防省関係者を震撼させたGPSや通信やISR衛星が無防備であることを如実に示したからである
●宇宙での戦いが起これば、影響を受けるのは軍事だけではない。戦いが宇宙で始まっても、民間衛星にまで容易に拡大し、携帯電話や銀行ATM等々に影響を与えるほか、地上に及ぶ全面戦争に拡大すると考えられている
●米空軍のJohn Hyten宇宙コマンド司令官は、「核戦争が宇宙にまで及ばないことを願っているが・・」と語っている
中国やロシアの宇宙戦能力
Space Fence1.jpg習近平は4月、中国空軍司令部を訪れ、米国との戦いの際に避けられない宇宙での攻防戦に備え、宇宙船の能力を磨くよう指示したと伝えられている。中国の宇宙アセットは、米国の約550衛星に対し、世界第2位の約150衛星になっている
中国は2007年に高度500nmレベルの低高度衛星迎撃ミサイル試験を行い、その後、高度20000nm程度のGPS衛星や早期警戒用の静止衛星を攻撃可能性を伺わせるミサイル実験を2010、2013、2014、2015年と連続して行っている。
●この実験をHyten宇宙コマンド司令官は、「宇宙戦の実用化長期計画がなければ、何年も連続して試験は行わない」と評価している
中国とロシアは既に、衛星の偵察カメラを盲目化したり、衛星自体を延焼させる地上レーザー兵器を配備していると言われ、数年後にはレーザー兵器を搭載した宇宙船を打ち上げるだろうと予測している
ロシアは実際、2013年と2014年に4つの衛星を打ち上げ、その狙いは不明確だが、打ち上げられた衛星が何度も軌道を変更し、他の衛星に近接したり衝突寸前まで軌道を変更した。特に4つ目の衛星は、複数のロシア衛星に接近するとともに、米商用のIntelsat衛星にも近接している。この技術は、有事に衛星攻撃の手段に用いられるのではないかと懸念されている
2014年には、何者かが米気象衛星システムに侵入し、観測データにアクセスする事件が発生確認されており、「Ghost Fleet」が描く「情報の書き換え」がSFの世界の話でないことを強烈に印象づけた
ソ連は冷戦時、自爆衛星を開発していたと言われるが、米ソは直接衝突には至らなかった。双方が早期警戒衛星等への攻撃が「核攻撃に相当する」とレッドラインを理解し、その敷居を越えなかったからだとWork副長官が振り返っている
●しかし冷戦後、宇宙に関与する国は60カ国を越え、1300もの衛星が地球を周回している。衛星へ依存は核兵器に限らず、通常戦力も頼りにし、気象や航法や通信分野でも不可欠になっている
米国の取り組み
Ghost Fleet2.jpg米国も衛星への脅威を認識して軍事衛星防御や強靱性技術に取り組んでおり、幾つかは実用化されている。衛星カメラへのレーザー攻撃を防御する分厚いシャッターを装備したり、妨害電波にうち勝つ強力な電波通信を可能にしたり、妨害を受けた際に周波数をホッピングさせる技術等である
GPSの代替技術や、核攻撃防衛や通信や偵察機能にも投資が始まっている。また複数の機能を装備して敵の目標となりやすい高価な多機能衛星を見直し、安価で小型な衛星に機能を分散することを目指す方向にもある
米国は宇宙アセットへの攻撃を、報復の脅威で抑止したいとの政策を取るが、報復を敵の同等のアセットに絞る方針である。しかし中露が核関連の早期警戒衛星や戦略通信衛星を攻撃してきた場合、米国の対応は宇宙に止まらないと書籍「Ghost Fleet」の著者は見ている
●また、商用衛星や地上の商用アセットへの攻撃は、米国への攻撃と見なされ、戦いは文民世界を急速に巻き込むこととなると、同著者は語っている
●著者であるPeter SingerとAugust Coleは、米議会で証言したり、NSCスタッフに講演したりしている。同著書はフィクションながら、その現実に沿った見方は、緒戦で宇宙を失うと戦いがどうなるかを描いた点で現実的な作品である。著者は「そうならないことを祈る」と語っているが・・・
米国は本年度予算で約2000億円を軍事衛星防御に投入するが、この予算は2017年度には2兆2000億円増額される方向である
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近年の中露の宇宙兵器(らしき?)開発活動や、米軍予算の増額具合から見て取れるように、宇宙に関する危機感が急速に高まっています。米軍高官の関連発言も増え、関連法案の改正も進みつつあります
Ghost Fleet3.jpgそれで間に合っているかというとそうではなく、サイバー戦と同じく、攻撃側が圧倒的に優位な状況にあり、状況把握体制から整える必要があるのでしょう。現状で日本が関与できるのはこの分野ぐらいでしょうか
防衛研究所の「東アジア戦略概観2016」が、第1章で「宇宙安全保障」を取り上げたように、同盟国にもその危機感が伝搬しつつあるのでしょう。
トム・クランシーの小説のように、「Ghost Fleet」が翻訳され、広く関係者や一般国民に読まれることが第一歩かもしれません。あっ・・既に「中国軍を駆逐せよ!」上下巻(二見文庫)で既に出版されているか・・・
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東アジア戦略概観2016
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-25

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