米海軍と予算バトル:国防長官がLCS削減と航空機増を指示

Reagan.jpg14日、カーター国防長官が米海軍の2017年度予算要求案に対し変更指示を発出し沿岸戦闘艦LCSの調達総量や調達ペース削減を命じる一方で、F-35やFA-18や艦対空ミサイルSM-6の追加調達、更に攻撃原潜の能力向上開発の推進等を指示しています
大統領選挙を来年に控え、ホワイトハウスの意向や議会勢力も絡んで、今後様々な形での紆余曲折が予想される2017年度予算(2016年10月以降の予算)ですが、ドロドロ予算争いの現場の「実況中継」を16日付Defense-News記事を参考に試みます
まぁ、沿岸戦闘艦LCSに関しては、能力不足だから装備を強化しろと言われたり、金が無いから削減しろと言われたり、でも総艦艇数増強の目標を維持すると言われたり・・担当者の苦労が忍ばれます
16日付Defense-News記事によれば
LCSIndep2.JPG●14日付のカーター長官から海軍長官当ての文書は、沿岸戦闘艦LCSの調達総数を52隻から40隻に削減し、更に毎年3隻ペースの調達計画を、2017年度予算から5年間は「1-1-1-1-2」に削減するよう求めている
●削減対象となったLCSは、2014年に当時のヘーゲル長官が、戦闘能力や防御能力不足を理由に強化を命じたLCSである。異例の2タイプ同時建造となっているLCSだが、2年前にも国防省と米海軍で削減を巡る激論があったが、この際は能力向上を図ることでヘーゲル長官が妥協した経緯がある
●カーター長官は文書で、LCS削減の代わりに、F-35購入数増、FA-18の追加継続購入、4世代機の改修、E-2DやMQ-4追加購入、電子戦機材の改修、P-8改修、空対空ミサイルの購入、艦対空ミサイルSM-6追加購入、バージニア級攻撃原潜の能力向上研究開発(VPM)等々に予算を振り向けるよう指示している
●なおLCSにはLockheed Martin製の「3,300-ton Freedom級」とAustal USA製の「2,800-ton Independence級」があり、現在6隻が就航、14隻が建造段階で、別の6隻が契約段階にある
現在の米海軍保有艦艇数は272隻で、「WW1以降最低」と米海軍が訴えており、2020年代には308隻態勢に増強することが計画されているが、増強計画の中核となるLCS削減の影響を海軍は懸念し反対している
●米海軍は、航空機の製造数変更は比較的容易だが、艦艇建造数削減は建造インフラへの影響が大きく、将来20年間に影響を与えることになると国防省に警告しているようである
LCS-Cut.jpg●同文書には記載は無いが、大型ステルス艦DDG 1000の3隻目建造を中止することも国防省内では検討されている模様
●また、国防省も米海軍も要求していないが、ホワイトハウスはオハイオ級戦略原潜の後継検討に2500億円以上を追加する動きを見せており、艦艇建造予算を圧迫すると見られるが、どこから財源を工面するのか不明である
航空機調達増に関する部分
●国防長官の文書は、対IS作戦需要を踏まえて2018年でのFA-18追加購入を指示しているが、2014年でFA-18調達を終了する計画だった米海軍は、現時点で2017年度のFA-18購入予算を計上していない
●FA-18製造のボーイングは、12月16日に2016年度予算で12機の追加が議会で承認された事を喜んでいるが2017年はFMS契約成立を待ち望んでいる
クウェートが少なくとも28機の購入希望を持っているが、湾岸諸国へのFMS手続きが停滞しており、その動向をボーイングは注視している
LCS削減案を巡る政治家の動向
LCS-2ship3.jpg●LCSの開発経緯やその能力を批判してきたマケイン上院議員は、国防省内の検討段階で有り、メディア報道に現時点で言及は避けたいとしながらも、国防省が戦略的に戦力構成を考えての動きである事を希望すると語った
●下院軍事委員会メンバーでJackie Speier民主党議員は、カーター国防長官の選択を高く評価し、その構想自体に疑問が生じていたLCS計画を正す判断だと歓迎した
●一方で「Independence級」の造船所を持つアラバマ州選出の共和党Bradley Byrne下院議員は、「米海軍が世界中で危機に対処して居る中で、無能で弱いオバマ政権が我が戦力弱体化の判断を下した。間違ってはならない。米国のための警告の鐘が鳴り響いているのに」と訴えた
14日付のカーター国防長官指示文書
→http://ec.militarytimes.com/static/pdfs/OSD-Carter-memo-to-Mabus-151214-cut-LCS.pdf
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今後クリスマス休暇を挟み、年明けから本格化する「2017年度予算バトル」の一端をご紹介しました。
記事はある国防省関係者のコメントを引用し、「正しい答えも間違った答えも無い。我々は不幸な環境に置かれているのだ。艦艇数も増強しなければいけないし、他の分野での戦闘能力向上も図らねばならないのだ」と表現しています
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まんぐーすは、カーター国防長官とWork副長官コンビを決断を尊重したいと思います。様々なしがらみがある中で、懸命にあるべき方向を目指す姿勢を感じるからです
まぁ、2種類のLCS候補を競わせて機種選定を行い、両方採用にした時点で道を誤ったとも言えますし・・・。海上自衛隊の方のご意見も伺いたいと思います
沿岸戦闘艦LCS関連の記事
「LCS調達隻数を巡る激論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-20
「LCS批判に反論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-23
「F-35化する沿岸戦闘艦LCS」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-09
「星国防相がLCS配備検討を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-10
「LCS機種選定泥沼」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-08-24
「次世代の米艦艇LCS」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-31

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