9日、ペンタゴンで会見を行った欧州米陸軍司令官Ben Hodges中将は、欧州にローテーション派遣している陸軍旅団装備の整備拠点「European Activity Sets」を、バルト3国や東欧諸国に急増設すると述べました。
ロシアがウクライナにちょっかいを出す前は、大隊レベルの装備品維持拠点を考えていた米陸軍ですが、「ちょっかい後」に旅団レベル想定に急遽変更し、2016年末までに6カ所の拠点を立ち上げようという急ピッチです。
ロシア正面である欧州での米軍の動きは、中国正面のアジア諸国正面での動きに比して、何倍も素早いしスムーズです。そんな素早い動きの一例として、細かな細部ですが整備拠点の話をご紹介します
もちろんNATOと言う明確な軍事枠組みがある欧州と、緩やかなASEAN程度しか無いアジアの違いもありますが、中国が突きつける「脅威の変化」と作戦拠点確保が難しい中での「新作戦コンセプトの未成熟&予算不足」が障害となっている側面も否めません
9日付Defense-News記事によれば
●Hodges欧州陸軍司令官は記者団に、2016年末までに、出来れば来年9月までに、Estonia, Latvia, Lithuania, Poland, Romania and Bulgariaの6カ所に陸軍装備品の整備拠点を立ち上げると語った
●まもなくLithuania, Romania and Bulgariaの拠点は完成するが、これは諸契約を迅速に結ぶことが出来たからであると同中将は語った。また更に追加でもう一か所が、2017年ハンガリーに設けられる
●(現在派遣中の)第3師団第一旅団がローテーション派遣を終了後は、使用した装備品は早期完成予定の整備拠点で補修維持整備が行われた後、来年4月に到着する派遣旅団が使用する
●その後、遅れてPoland, Estonia and Latviaで完成する整備拠点へ搬入され維持補修整備が行われる予定
●整備拠点「Activity sets」には、装備品の事前前方備蓄とは別に、装備整備用の様々な器具や装置が配備される。なお、1個旅団が保有する装備品は、約250両の車両や兵員装甲車、自走砲など車両だけで計約1300両である
●ロシアによるクリミア半島併合まで、米陸軍は1個大隊程度用の整備拠点を1年半かけて整備する計画を持っていたが、ウクライナ事案後、今年秋までに1個旅団を派遣し、9か月ローテーション派遣体制を開始している。
●Hodges司令官は今後の欧州での整備拠点増設計画については語らなかったが、司令官として州兵の装備の事前集積を提案していると述べ、整備拠点やドイツに保管する案を持っていると語った
●また同司令官は、既存の装備事前集積を増加させることで抑止力を高めることも考えているとし、何も決定していないが保管場所も含めて検討していると説明した
●400名の米軍兵士がウクライナ兵の訓練を11月末から開始しており、また迫撃砲監視レーダー、射撃源探知レーダー、防弾チョッキ、医療品等々をウクライナ国防相に提供していると語った
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繰り返しになりますが、中国正面での米国の活動拠点確保や「やるべきこと」の決定や順序立ての整理が、欧州のロシア正面では遥かに円滑で迅速です。
地域関係諸国の米国への協力度の差もありましょうが、「何をすべきか」に関するコンセンサスや、その基礎をなす作戦運用コンセプトが、「エアシーバトル立ち枯れ」の中で空席になっていることも大きいと思います。
欧州では、米軍の皆さんが「イキイキ」されているように見えます。
特に「鈍重な」兵站分野で、これだけ迅速な動きを見せるあたりは、将軍クラスの人が詳しい(部下に偉そうに語れる)からでしょう・・・軍隊ってそんなところです(たぶん)
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