米海軍情報局が本年4月にその存在を公式に発表した「対艦巡航ミサイル:YJ-18」について、米国の公的機関である「米中経済・安全保障協議会:U.S.-China Economic and Security Review Commission」が28日付でレポートを発表しました。
タイトルは「対艦巡航ミサイルYJ-18:その能力と西太平洋地域の米軍への影響」で、政経問題を政経問題を広範囲に扱う機関のレポートとしては異例の「特定な兵器に関するレポート」です。
中国海軍の水上艦艇や潜水艦に搭載可能な仕様となっており、その性能から本日ご紹介する米海軍大学のAndrew Erickson氏のような専門家が「対処不能な兵器」と呼ぶ高性能兵器です
以下では、同レポートを紹介したAndrew Erickson氏のブログ記事を紹介いたします
レポート現物(7ページ)
→http://origin.www.uscc.gov/sites/default/files/Research/China%E2%80%99s%20New%20YJ-18%20Antiship%20Cruise%20Missile.pdf
28日付Erickson氏のブログ記事より
●4月に米海軍情報局が恒例の中国海軍評価報告書で初めて公式にその存在を記述した「YJ-18対艦巡航ミサイル」は、潜水艦と水上艦艇に搭載可能である。
●これまでの同種対艦ミサイルより遙かに凌ぐその射程や飛翔速度、中国軍アセットへの広範な搭載可能性により、中国の米海軍艦艇に対するA2AD能力は飛躍的に増加するだろう
●2020年までに、YJ-18は中国製の多くの巡航ミサイル搭載艦艇や潜水艦に搭載され、また改良されて地上配備の旧式対艦巡航ミサイルに取って代わるだろう
●本レポートは、公開資料と既存ミサイルとの比較による考察で、YJ-18の特徴を考察するもの
YJ-18対艦巡航ミサイルの特徴
●亜音速の巡航速度(推定マッハ0.8、600ノット)で、攻撃目標の手前20nmで超音速(マッハ3)に加速する。亜音速巡航で航続距離を伸ばし、終末超音速で敵の対応を困難にする
●米国防省によれば射程は290nm(540km)。現有ASCMのYJ-82の射程が20nmであることを考えると、飛躍的な能力向上である
●艦艇のレーダー網を回避するため、飛翔経路の大部分を海面数メートルの低高度で飛翔し、攻撃目標の直前18nm程度までその低高度を維持する
●YJ-18の大きさに関する確固たる公開情報はなく、弾頭搭載量を推測する資料もほとんど無い。Jane’sが300kgとする一方、他の資料は140kgとなっている
●水平線以遠(over the horizon)の目標照準のためのC4ISRに中国は努力を傾注しており、YJ-18の様な長射程ミサイルに目標位置情報を提供しようとしている。OTHレーダーや艦艇レーダー、航空機搭載レーダーを活用して
●しかし、中国のC4ISR能力は、YJ-18のような射程のミサイルを支えるには不十分である。米国防省は「中国が第一列島線を越え、正確な海上の目標位置情報を適時に兵器に提供できるかは不明確である」としている
●また中国のC4ISRインフラは電磁妨害などに脆弱で、妨害で発見識別追尾能力が低下する可能性があり、中国軍の対艦ミサイルの能力発揮を低下させている
●YJ-18の航法は「waypoint navigation」を使用している可能性が高く、ミサイル搭載レーダーが目標補足を担っていると考えられている
中国メディアによるYJ-18試験成功の報道
その他のYJ-18情報
4月11日付海国防衛ジャーナル
(米海軍情報局による中国海軍評価報告書に関し)
→http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50746388.html
●YJ-18はロシアの3M54Eクラブをベースに作られた対艦ミサイル。3M54Eクラブもキロ級(636M)潜水艦に搭載されている。YJ-18は垂直発射システム(VLS)からの発射が可能。
●YJ-18は093G型商級原子力潜水艦や052D型駆逐艦への搭載が噂されていた。
●今回の報告書では、052D型駆逐艦のほか、宋級と元級通常潜、商級原潜へYJ-18が搭載されているとされています。
●052Dや055といったVLSを多数備えた水上艦は今後も増勢していくとみられ、それに伴い、YJ-18の配備数も増える懸念が。
●中国海軍の専門家であるA.Erickson海軍大学准教授は、と、YJ-18の防衛は極めて難しいと述べています。他にも「The Diplomat」のように、YJ-18を「空母キラー」としているものがある。
5月:米国防省「中国の軍事力2015」
→http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50748065.html
●旧型水上艦はYJ-8A(120km)搭載だが、052C型はYJ-62(220km)、052D型と055型はYJ-18(540km:290nm)を搭載する。
●YJ-18/派生型は、現在8隻の636M型キロ級に搭載されているSS-N-27シズラーより劇的に能力が高い。636M型キロ級に搭載済で、宋級、元級、商級に搭載される予定
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米海軍のイージス駆逐艦ラッセンが、中国海軍の艦艇を「引き連れるように」南シナ海で「航行の自由作戦」を行っています。
この作戦を捕らえ、何か急激に「中国破れたり」的な論調が増え、中国は「手も足も出ない」的な表現が目立つようになっています。
中国バブルが弾け、習近平の訪米が不調に終わり、中国寄りの韓国の調子が悪く米韓関係がギクシャクでも、世界を大きく捕らえれば、日本の状況を真摯に見つめれば、ここ1ヶ月ぐらいの出来事は、ほんの表層的な出来事でしょう。
落ち着いて謙虚に、自分の立ち位置を見極める必要がありましょう。
東シナ海がやり玉に上がる可能性も、十分考えられます・・・
中国軍事力関連の記事
「RANDの中国軍事力分析」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-18
「前:RAND中国軍弱点レポート」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-15
「後:RAND中国軍弱点レポート」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-15-1
「中国陸軍の挑戦と課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-11
「中国映像:島嶼占領」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-06
「西側仰天:DF-26も空母キラー」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-04
「中国軍事カテゴリー」の140本
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/archive/c2300801487-1