F-35の戦術核搭載型は2020年代半ばに

F-35 B61.jpg18日、米国防省F-35計画室長のChristopher Bogdan中将は、米空軍のみが戦術核兵器搭載可能なF-35を運用することになると語ったが、核兵器搭載可能型の完成は2020年代半ばまで待つ必要があると明らかにした
同中将は、F-35が展示される予定のメリーランド州Andrews統合軍基地(ワシントンDCから約20km)での航空ショーの前日、Air Force Magazineの取材に応じて答えた
23日付米空軍協会web記事によれば
●同中将は、米空軍が唯一(unique)の核兵器搭載型F-35を要望しているF-35ユーザーである(USAF’s dual-capable requirement is unique)と語った
F-35 B61 4.jpg●そして、核兵器搭載可能型が利用可能になるのは2020年代半ばだとし、(そこまで遅れる理由は)F-35側にはなく、戦術核爆弾B61側にあると語った
B61戦術核爆弾の維持近代化改修(計画)が完了しておらず、2020年代まで待つ必要があり、同爆弾が完成してから機体との細部適合を確認する時間が必要だとBogdan中将は語った
●一方で、同戦術核爆弾の「模擬弾」を使用したF-35搭載試験は今夏から開始しており、機内兵器搭載庫との適合、環境確認、熱や振動等々の影響をテスターで確認していると説明した
●なお同爆弾の改修はエネルギー省が担当し、米空軍は「tailkit」を担当していると説明した
過去記事で戦術核兵器問題を「温故知新」
2010年当時は欧州戦術核不要論も
「F-35は戦術核を搭載するか?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-06
これまでの経緯を振り返ると
F-35 B61 5.jpg70年代の欧州では、有事60機のF-111戦闘爆撃機が迅速に核任務で出撃可能だった。80年代にも6機のF-16がB61核爆弾を搭載し、僅か15分で発進できる態勢を取っていた。
●しかし冷戦後は高レベルの待機は終了し、現在は数週間の準備期間が必要な待機態勢だ。CRSの研究者によれば、欧州には現在戦闘機に搭載可能な核弾頭が数百有るのみである(4月26日付NYtimes紙は、米はドイツ、ベルギー、オランダ、イタリー、トルコに150から250の核兵器を有すると報道
現在は米空軍F-16とF-15Eがこの拡大抑止を担っているが、機体の老朽化が進んでいる。海軍ではFA-18と海兵隊のAV-8Bが核搭載可能だ。
F-35開発初期段階では、核搭載能力が必要か否かについて議論が有ったが、国防省関係者はその必要性を強く主張した。
F-35 B61 3.jpg●なお、F-35を核搭載仕様にするには改修が必要で、約300億円の追加費用が必要になる。主に内部の配線やアビオニクスへの措置が含まれる
●同盟国では、英国はハリアーが戦術核兵器搭載可能(潜水艦のトライデントミサイルは戦略核)である。核非保有ではあるが、独、伊、蘭及びベルギー航空機は米のB61核爆弾を搭載可能である。
●これらNATO同盟国が購入可能な核搭載可能戦闘機が必要であり、F-35にF-16の後継の役割が託された。それ故、F-22に核搭載能力を付与しようとの議論は起こらず、空対空に最適化した。
2010年当時の各国の姿勢
F-35 B61 2.jpgクリントン国務長官(当時)の姿勢は、戦術核の削減にオバマ政権は反対ではないが、少なくとも米の10倍の戦術核をもつロシアがその削減に同意しない限り、NATO地域からの米の戦術核の撤去はない
●「核兵器が存在する限り、NATOは核同盟であり続けることを認めるべきである。核同盟として、核の危険と責任を広く共有することは基本的なことである」と同長官は語っている
トルコや旧ソ連圏諸国は撤去に消極的ポーランド外相は、急ぐべきではないし、一方的な行動にでるべきではないと述べている。
ラスムセンNATO事務局長(当時)も米の核兵器の存在は信頼性のある抑止の不可欠な部分である」と述べた。政治的な亀裂の深さ故、この問題は同盟の分裂につながりかねないとの懸念を持っている。
一方、ドイツ、オランダ、ルクセンブルグ、ノールェは戦術核撤去を議題にするように求めた。ドイツの自由民主党の外相ヴェスターヴェルが熱心である。
2010年当時の米国内での議論
B-2 B61.jpgB61戦術核爆弾の維持も課題である。60-80年代に生産され、改良を加えながら多数のバージョンがあるB61の延命措置が不可欠だ。
●しかし現在、核関連施設が海軍用の核爆弾W76の延命措置で手一杯であり、また施設の維持には継続的に投資が必要である。F-35とは別に、B-2が使用するためにもB61の延命措置が必須であると関係者は訴えている。
●しかし、政治レベルで本件は揺れ動いており、海軍W76への措置は議会で支持を集めているが、空軍B61については削除の声も挙がっている。
●F-16やF-15Eの老朽化は進んでおり、F-35以外にその任務を引き継ぐ機体はない。敵の防空網が強固になり、スタンドオフ兵器を搭載しない巨大なB-2が核任務を特に昼間果たせなくなったらF-35に任務を譲るしかないが
おまけ:空中給油ソフトを改善中
F-35 refuel.jpg空中給油に必要な時間を短縮し「要求に適合させるため」、ソフト改修を11月に行うが、11月の改修は最後の改修ではなく、以降も継続的に取り組む必要がある課題だとBogdan計画室長は語った
●空中給油機からF-35に給油する際、最後の約1000ポンドを給油するペースが低下するが、燃料系のバルブの開閉に時間がかかることが原因だと判明しており、燃料供給圧力が低下する事になっていると同中将は説明した
●遅れの程度等、細部には言及しなかったが、同様の課題をF-15やF-16も抱えていたと室長は解説し、克服可能だろうと語った
●「給油に時間がかかれば、それだけ燃料を消費する」と問題認識を語った
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ウクライナ事案以降、欧州正面でのロシアの活動が活発化し、欧州諸国の危機感は高まっています。少なくともドイツ以東の国々は、軍事費費増加や徴兵制復活を含む兵力増強を計画しています。
F-35-Face.jpgほんの5年前までは、戦術核兵器廃絶の声が欧州にあったようですが、恐らく今では「長い目で見て核兵器廃絶派だが、今は慎重に」の声が強いのではないかと思います(定かではありませんが)
問題は米軍予算の中で、戦術核爆弾B61の改修近代化がどの程度の優先順位を得られるかです
あと、Bogdan中将は核兵器搭載型が米空軍「unique」だと語っていますが、現在搭載能力を保有すると言われる英、独、伊、オランダ及びベルギーが、その能力を放棄するかどうかです
拘らないような気がしますが、「危機感の温度」次第でしょう
「F-35は戦術核兵器を搭載するか?」
http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-06

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