意図的リーク?:次期爆撃機LRS-Bの概要と選定状況

LRS-B NG.jpg2日及び5日付のDefense-News記事が、まもなく発表されるであろう米空軍の3大優先事業(他はF-35とKC-46)である次期爆撃機LRS-Bを巡る状況について、米空軍内での検討会議参加者の証言等を交え、かなり詳細に報じています。
LRS-Bに関してはつい最近、10年間のコスト見積もりを単純な計算ミスで70%も「少なく見積もっていた」事が判明し、空軍長官らが苦しい釈明に追われ、議会からは非難と計画への監視強化を求める厳しい声が上がっているところです
次期爆撃機の検討が「これまでに無いレベルで精緻に進められ、計画の成熟度がすごい」とのお話しで、意図的リークの臭いがプンプンの「会議参加者の証言」ですが、LRS-Bに関する様々な情報が含まれていることも有り、ご紹介します
2日付報道によれば
LRS-B4.jpg●米空軍内で1日に行われたLRS-B検討会議に参加した2名の参加者は、2013年5月に空軍が要求性能を固めて企業に提示して以降、企業は時間を掛けて技術確認をしながら構想を固め、米空軍はRCO(能力迅速確保室:Rapid Capabilities Office)が中心となり、製造段階での問題発生を防止するため、企業提案を細かく確認してきたことも有り、提案は「過去に例が無いレベルで極めて成熟している」「コスト管理にも意識が高い」と匿名で語った
●提案は「Northrop Grumman」提案と「Boeing and Lockheed Martin」提案の2つに絞られており、それぞれエンジンや電子装備や指揮通信機器などで相互の設計が全く異なり、「実際に両提案とも飛行していない点で同じ」だが、既に風洞試験や耐久生存性試験も精力的に実施されており「信頼性の面では、過去の開発計画を遙かに凌いでおり、ここのアクセスパネルに至るまで確認されている」と同関係者は語った
米空軍のRCOは過去の開発計画の教訓を生かし、かつ、通例の調達過程とは異なる活動の自由度を与えられており、「謎の宇宙飛行船」と言われるX-37Bにも関わっている。LRS-Bに関しては、2011年に当時のゲーツ長官がRCOに担当を命じており、3年以上も提案の成熟に関与していたことになる。
●次期爆撃機は開発のリスクを避けるため、「成熟した既存技術」を使用すると言われてきたが、RCOは「一般には公開されていない既存技術」にアクセス可能で、それらも生かして成熟度を高めた模様である。
1日の会議参加者は性能について
LRS-B5.jpg●関係者は会議の細部には言及しなかったが、想定される契約に関し、2~3機は本格生産の前に試作され、最初の21機は5ロットに分割されて「経費固定契約インセンティブ」が導入される
●また、相当な電子攻撃能力が付与される。核兵器搭載の承認には時間がかかるが、ソフトとハードの作り込みは当初から行われ、通常兵装での試験を妨げない方式がとられる
●有人型をオプション(optionally manned)とする計画はそのままだが、初飛行は有人型で行われ、無人機型用の装備が当初生産から組み込まれるのは不明確。会議参加者の一人は「無人機型を急いで追求はしない」と語っている
●引き続き「open-architecture」を重視し、継続的に新技術を導入しやすいように設計される
ステルス性能は、B-2爆撃機より遙かに向上(significant improvement)している。また「兵器搭載量と航続距離については、双方ともB-2より約2割減」と表現した
●機体の大きさは「米海軍のUCLASSよりは大きいが、B-2よりは小さい」と会議参加者は表現し、「エンジンの性能によるところが大きい」と語った
5日付報道によれば
LRS-B7.jpg●2つの提案に関する慎重な確認が行われており、また結果に対し敗者からクレームが出ないように評価の根拠付けが慎重に進められている模様。また軍需産業界に与える影響への分析もあるようで、選定結果発表は当初の夏から秋9月へ伸び、今では10月まで連れ込むとの声も聞かれる
運用開始が2020年代半ばである事に変化は無いようだが、議会調査局のJ.J. Gertler調査員や匿名の関係者は、1日の会議からいくつか具体的なLRS-Bに関する情報が明らかになったと語っている
●適応技術の成熟度はこれまでに無く高く確認されているが、今後は機体として組み上げる(integrating)段階での問題となろう。細部は誰も語らないが、エンジンの装着位置やセンサー等アンテナの設置位置はステルス性にも大きく影響を与え、容易でない課題となり得る
航続距離、大きさ、搭載兵器量を推測
爆撃機の航続距離はこれまで一般に長く、地球の反対側を迅速に攻撃出来るようなイメージであったが、空中給油能力の向上等も有り、大きな燃料タンクを保有して大型化するリスク、航続距離を維持する必要性、爆弾搭載量を総合的に検討している
●元米空軍情報作戦部長であるDavid Deptula退役中将は、「ロシアや中国のA2AD能力を踏まえれば、空中給油無しで作戦行動半径2500nmあれば良いのでは」と意見を述べている
●2010年々ベースで1機のコスト$550 millionとの計画で有り、総合的に考えれば機体の大きさは「米海軍のUCLASSよりは大きいが、B-2よりは小さい」と考えられている
●速度についても具体的な情報は無いが、種々の条件を勘案すれば「Subsonic:亜音速」の機体が考えられる
選定結果の軍需産業への影響
LRS-B8.jpg●様々な意見があり、よく分からない
●選定結果の軍需産業への影響には、様々な見方がある。UCLASSや次期練習機T-X、6世代戦闘機等の将来事業を考え、またLRS-Bの細部パーツレベルでの事業分担により、本選定に関係するどの企業も、選定結果により「退場」することは無いと見る専門家も居る
●一方で例えば、ボーイングは次期空中給油機KC-46Aを担当しているが、ボーイングが第6世代戦闘機まで作戦航空機分野で生き残るには、LRS-B確保が必須と見る専門家も居る。ただ米海軍のFA-18製造継続も検討されており、これにより同社のセントルイス工場が維持可能だとの見方もある
Northropが勝った場合、ボーイングがNorthrop航空機部門を買収するとのシナリオを描く者も居る。Northropの基本設計が終了してしまえば、投資家目線では買収はあり得る
●しかし、競争による価格提言や性能向上を目指す国防省が、買収&統合による企業の集約を許可するとは考えにくい
LRS-B6.jpg●また、ボーイングが勝てばNorthropが分社せざるを得ないとの主張もあるが、Northropが多様な機種で細部のパーツを担っており、その累積は非公開プロジェクトを含めると相当額あるとの楽観的な見方もある
LockheedがF-35を担当し、ボーイングがKC-46Aを担当していることから、NorthropがLRS-Bを取れば均等だとの見方があるし、「Boeing and Lockheed Martin」が勝てば、LockheedがF-35と併せ攻撃機を独占すると懸念する者も居る
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最後の「結果がもたらす軍需産業界への影響」は、全く意見が分かれており、どうなるのか分かりませんが、軍需産業界の複雑な一面を感じて頂ければ幸いです
性能や機体概要に関しては、恐らく2つの記事の情報は有効でしょう。結果が出れば、明らかになるでしょうが・・・
gatesMarine.jpgゲーツ元国防長官の名前が出てきて嬉しいです
ゲーツ長官が肝いりで設置した米空軍のRCO(能力迅速確保室)が最初の成果として、わずか1年で計画から製造・試験までを終了しアフガンに送り込み、現場で絶賛されたMC-12画像ISRデータ中継機が、陸軍に移管されるとの話が最近ありました。しみじみです
ここで再びゲーツ長官の遺産に出会えるとは・・・絶対に成功させて欲しい「LRS-B」です
しみじみと安全保障と軍事の本質を考えよう!
たたき上げ職員からCIA長官に成り、更に政党の異なる2つの大統領の国防長官を務めた男
ロバート・ゲーツ語録100選
→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-05-19
LRS-B関連の記事
「全爆撃機をLRS-Bに」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-29
「次期爆撃機cost-plus契約?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-06
「選定結果で業界大再編か」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-01-20
「次期爆撃機の進捗は?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-08-1
「LRS-Bの提案対決は」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-10-26-1
「次期爆撃機に有人型は不要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-07-16-1

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