ウクライナ情報:電子戦で露軍に驚く米軍

米陸軍元電子戦部長
「露軍が出来る1/10の妨害も米軍は出来ない」
「最大の問題は、数十年も指揮通信が低下した状態で戦ったことがないことだ。妨害を受けた際、どうして良いか判っていない」
Ukrainian forces.jpg2日付Defense-News記事は、欧州米陸軍司令官らの発言を紹介しつつ、ウクライナでの戦いから米陸軍が電子戦分野で「劣勢」に立たされている現状や、最前線での経験をウクライナ軍から米軍が学ぶ様子を紹介しています
イラクやアフガンで「仕掛け爆弾」対処の電子戦に注力してきた米軍が、電子戦の戦術、技術、装備全てで力を蓄えたロシア軍に驚嘆する様子と、順調に進んでも米陸軍の新電子戦装備は2023年まで待つ必要があること等が明らかにされています
2日付Defense-News記事によれば
Hodges2.jpg●欧州の米陸軍は数週間にわたりウクライナ軍の訓練に取り組んだが、Ben Hodges欧州米陸軍司令官は、ロシア軍が支援する分離独立派と戦ったウクライナ軍から米軍が学ぶことの方が多いと語った
●ウクライナ軍はロシアの強力な電子戦装備に対峙しており、専門家は米陸軍でも歯が立たないレベルだろうと分析している
●Hodges司令官は「1/3ウクライナ軍兵士は戦闘地域で勤務経験があるが、米兵が勤務しない戦闘地域での彼らの経験や教訓、ロシアの電子戦の威力、妨害、情報収集力に関する話はとても興味深い」と語った
●かつてロシア軍の電子戦の質を「涙が出るほど(すごい)」と表現した同司令官は、ウクライナ軍からロシアの電子戦能力、妨害可能距離、タイプ、活用手法等々を学んでいると語った
電子戦の専門家は現状を
米陸軍で元電子戦部長で大佐だったLaurie Buckhout女史(現サイバー電子戦支援企業のCEO)は、ロシアは電子戦に特化した部隊を維持し、電子攻撃、通信・レーダー・GPS・指揮統制妨害等で敵の機能を混乱させる能力を保有していると語った
●同女史は、ウクライナ軍は電子戦から防御する手段や装備を保有していないが、かつてソ連圏だったことからロシアの電子戦を理解しており、妨害下でどう対応すべきか体得すると見ており、そこから米軍は学ぶべきだと考えている
Buckhout.jpg●Buckhout元大佐は「最大の問題は、数十年も指揮通信が低下した状態で戦ったことがないことだ。妨害を受けた際、どうして良いか判らない状態にある」と指摘し、「米軍は戦術や技術や手順だけでなく、指揮通信低下時の対処訓練も欠如している」と訴えた
ロシア側が電子戦を重用するのは、物理的破壊とは異なり電子戦は世界の目に触れにくく、国際社会からの非難を受ける可能性が低いからだろうと同女史は見ている
●ウクライナでの戦闘でロシア側は、ウクライナの砲兵部隊の反撃を妨げている。またレーダーが見えなく横の連携が取れないためウクライナは防御連携が出来ず、ロケットやミサイル攻撃を防ぎきれないでいる
●Buckhout女史は米軍に関し、「(現役時)ロシア側の通信を1日傍受していたが、露軍が出来る1/10の妨害も米軍は出来ていなかった」、「米軍は敵のネットワーク攻撃に無防備であった」と振り返った
現役の米陸軍電子戦部長は
●Jeffrey Church陸軍大佐は、米軍がイラクやアフガン対処に投資している間にも、敵対国は電子戦能力の向上に努めてきたことを認め、米陸軍に最新電子戦装備を保有し「いかなる相手に対しても、電磁スペクトラム分野で鍵となる地域を支配する能力が必要だ」と述べている
米陸軍は「Multifunctional Electronic Warfare (MFEW)」との計画で、攻勢的な電子戦能力の獲得を目指している。担当のGriffin陸軍中佐は、MFEWは携帯電話から、衛星通信、GPS等までを妨害できると説明している
Ukrainian forces2.jpg●しかし最近まで、米陸軍の電子戦は「防御的な電子攻撃」、つまり仕掛け爆弾の遠隔操作を無効化する装備の開発が焦点だった。装甲車の周辺に妨害電波網を構成して装備や人員を守る装備や、C-12に過激派の無線を妨害するポッドを装着したりしていたのだ
しかし米陸軍の電子戦担当士官813名等は、一般に部隊では他の仕事も命ぜられており、「EW=extra worker:余分な労働者」と揶揄されるような状態に置かれていた。
●前述のMFEWにしても、運用開始が2023年で、完全運用になるのは2027年と見積もられている状態だ。C-12やMQ-8搭載の電子戦装備も、新たに検討が開始されている状況
米軍はウクライナで学ぶべき
●ウクライナ国防省のLiesnik補佐官は、米軍はロシア軍のように協力に組織化され装備も供えた相手への備えが不十分だとし、「ウクライナには将来の戦いがあり、わが国の教訓・経験は米軍人にとって重要なものとなろう」と述べている
●電子戦だけでなく、ロシアの対空兵器はウクライナ軍の航空機使用を困難にし、兵士を守る装甲のあり方も再考を迫られている。またロシア無人機への対応も課題となっているし、負傷者への対処も改善の余地がある
Hodges.jpg米陸軍もウクライナから学ぶ必要性を感じている。例えばHodges欧州米陸軍司令官は、米軍が提供した迫撃砲監視レーダーをウクライナ軍が工夫し、米軍より有効に活用していることに驚きを隠していない
●戦術以前のレベルで、欧州米陸軍司令官はウクライナ軍を評し、「ウクライナ軍自身による、問題点を改め能力を向上しようとする熱意ある姿勢に感銘を受け続けている。そのプロ意識は私が見聞きした中で最高の一つである。彼らは極めて率直に教訓や問題点と向き合い、語ってくれる。翻って米陸軍はどうだろうか? 我々のなすべきことを示してくれているのではないか」と語っている
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イラクやアフガンでの10数年が特殊だったとはいえますが、「最大の問題は、数十年も指揮通信が低下した状態で戦ったこと。どうして良いかわからない」とは深刻です。
hybrid war.jpgウクライナでの実質ロシア軍との戦は「ハイブリッド戦争」と呼ばれ、サイバーや電子戦と通常戦が絡み合った形態の紛争となっています。
東欧での経験が、米軍のDNAをたたき起こし、対中国の備えとなってくれることを願います
個人的に感銘を受けたのは、欧州米陸軍司令官がウクライナ軍を評した言葉です。ウクライナも必死なのでしょう。「プラハの春」にならないことを祈ります
→「ウクライナ軍自身による、問題点を改め能力を向上しようとする熱意ある姿勢に感銘を受け続けている。そのプロ意識は私が見聞きした中で最高の一つである。彼らは極めて率直に教訓や問題点と向き合い、語ってくれる。翻って米陸軍はどうだろうか? 我々のなすべきことを示してくれているのではないか」
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