中国近傍で脆弱でも米軍は前方展開を維持せよ

ASBConcept.jpg11日付岡崎研究所「世界潮流を読む」は、スタインバーグ(前国務副長官)とオハンロン(ブルッキングス)氏がその著書「Reassurance and Resolve in East Asia」の概要を解説した論文を取り上げ、中国との紛争を早期エスカレーションさせるような軍事計画を避け、長距離打撃力重視や米軍の前方配備軽視の考え方を戒めるべきだと主張しています
具体的には、エアシーバトル(ASB)一辺倒は中国の誤算を生む可能性があり、中国近傍の米軍基地の脆弱性を懸念してより遠方からの長距離打撃力に依存することは、同盟関係を弱くすると訴えています。
そして執るべき手段として、細部に言及がありませんが、「関与とヘッジ」戦略を応用した単純ではないアプローチを提唱しています。
ASBへの評価は納得出来ませんが、日本としては有り難い主張でしょう。しかし論文に記述はないモノの、当然日本の軍事戦略にも大きな変革を求めるモノでしょうから、頭の体操にご紹介します
まずご両人の論文概要は
RIMPAC2010.jpg●東・南シナ海で領土摩擦が続く中、米国は、国益と同盟の約束を守るとともに、紛争を避ける戦略を必要とする。この戦略は難しい。ただ米国は、対アジア政策を軍事的な圧倒的優位がなくなることを前提に、色々な要素を組み合わせ、紛争時にエスカレーションを管理しうるものにすべきである
●軍事的には、米国は中国の台頭に対応するために軍をより近代化しなければならない。また中国がA2AD能力を強化する中、米国の基地、海軍力の脆弱性をどう克服するかが問題である。
●我々の著書は単純ではないアプローチ、つまり、「関与とヘッジ」戦略を応用し、経済的誘因などを活用すると同時に、もしもの為に軍事力を維持することを推奨する
●軍事的なヘッジを「エアシーバトル(ASB)概念」の米軍事力維持で主張する人がいるが、一方的優位を求めれば、中国との軍拡競争になる。
●またASBの主張者は、中国のミサイル基地等への先制攻撃を主張し、それを米領土からの長距離兵器で行おうとするが、これは紛争初期に大規模なエスカレーションを引き起こしかねず、避けるべき
●また「バトル」との言葉が危険で、エア・シー・オペレーションとして海賊対策などを含むより広いものにする方が良い
ASBM DF-21D.jpg全面戦争に至らない解決のための戦略がいる。米国は、事の重要性に応じた措置の選択肢を広く持つべき。この際、経済的、政治的措置、軍事プレゼンスが有効であった冷戦時代の教訓も学ぶ必要がある。
●どんな技術的優位も完全な脆弱性克服をもたらさない。航行の自由や同盟関係を守るために対中国攻撃能力に頼ると、中国の指導者が尖閣諸島のためにロサンゼルスを犠牲にする用意を試しかねない
米国の戦略は「関与とヘッジ」戦略を応用し、決意と保証を組み合わせたものであるべきで、それが中国の指導者に地域の領土問題でより協力的姿勢を取らせる最善の策である
この論文を高く評価して岡崎研究所は
LRS-B4.jpgASBは、大規模エスカレーションを想定して米本土からの長距離打撃力で中国本土の軍事施設を破壊する計画で、エスカレーションのはしごを駈け上るような構想であるとの両名の指摘は的を射ている
●エスカレーション管理は難しい問題だが、はしごの段数は多いほど、途中で登るのをやめたり下りたりできるので、費用はかかりるが、そうしておくべき
●米本土からの長距離攻撃との発想は、中国近傍基地は脆弱との発想から来ます。狭い軍事戦略的にはそうで、オフショア・バランス論もその系統に属します
しかしこれは同盟網を弱めることにつながります。その損失は計り知れません。危なくても中国近傍に前進配備することが肝要
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自称「日本で最初にエアシーンバトルを紹介した」まんぐーすとしては、ASBが変に「抽象化されカテゴライズ」されて批判されるのは辛いですが、議論の一環として受け入れましょう。
しかし、「中国近傍基地が脆弱」だから「長距離攻撃」が有効だと考えることを、「狭い軍事戦略」だと言いきるにあたっては、日本として十分注意する必要があります
BMrange.jpg上記議論や主張に関連して注意が必要なのは、「ASBは危険論」や「エスカレーション反対論」や「長距離攻撃危険論」や「関与とヘッジ戦略」を持ち出し、自衛隊の組織防衛に利用する「悪党」が存在する点です
エスカレーション防止のため柔軟性のある有人戦闘機による航空優勢が大事だとか、中国も経済が大事でエスカレーションは望まないから弾道や巡航ミサイルによる大規模攻撃はあり得ないとか、地対艦ミサイルは相手を刺激するから離島に歩兵が張り付いて死守するのが一番だとか・・・・
自衛隊の現組織体制を死守するため、「紛争を避ける戦略を必要とする」との理論を悪用・曲解する「悪党」が防衛省・自衛隊やそのOBに多数見受けられます
それら自衛隊の悪党に共通するのは、上記論文も大前提で重要性を指摘している「基地や戦力の脆弱性克服」を無視する点です。脆弱性無視の姿勢は、サイバーや電子戦の軽視姿勢にも顕著に表れています。
米国の有識者が「国益と同盟の約束を守るとともに、紛争を避ける戦略を必要とする。この戦略は難しい」と真剣に悩んでくれているのに、その難しい環境を利用して「組織防衛」を図る「悪党」を許すまじ!!!

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