29日、米国防省の試験評価室(OT&E:Office of Test and Evaluation)が年次レポートを公表し、F-35計画を酷評しているようです。本レポートは、先日ご紹介した米海軍P-9哨戒機の「複数の不具合」の元ネタ報告書でもあります
本日ご紹介するのは28日付「海兵隊タイムズ」記事ですが、以前から問題視されていながら、昨年相次いで楽観的な見通しが「流布」されていたソフト開発や兵站情報システム(ALIS)に関し、年次レポートは「未成熟」「計画の遅れ」「13ヶ月遅れ」等の言葉で厳しい評価を下しています
また更に、同計画の「死のスパイラル化」を防ぐため、企業や戦闘機族が「なりふり構わぬ」楽観論宣伝を行っている様子も同記事から伺えるので、ご紹介します
28日付「海兵隊タイムズ」記事は
●米国防省の試験評価室(OT&E)の年次報告書は、2013年に各方面から流布されたF-35計画の「進捗宣伝」に強烈な反撃を加えている
●問題視されているソフト開発の遅れが影響し、F-35を最初に運用開始する予定の海兵隊の初期運用能力獲得IOCは、現計画の2015年から2016年7月にまでづれ込むだろうと予測できる
(注:空軍のIOCはソフト「3I」で2016年12月、海軍は「3F」で2019年2月予定)
●海兵隊機が使用するソフト「2B」はテスト飛行が遅延しており、これまでの進捗速度から類推すると、完成は13ヶ月は遅れと予測できる
●また自動兵站管理システム(ALIS)のソフト開発に関しても「未成熟で計画から遅れている。作戦運用、維持整備、部品調達の中核となる本システムの如何なる遅れも、F-35計画全体の大きな問題となる可能性がある」と指摘している
●ALISに関しては、国防省高官もF-35計画全体の推進における「大きな課題:major challenge」だと表現している
●またOT&Eの年次報告書は、被弾時の電子システムの脆弱性について「何ら対策が取られていない」と指摘し、更に2013年の飛行試験等の過程で見つかった多数の「機体のひび割れ:クラック」についても懸念を示している
●2月、3月、そして9月にも発見されて飛行停止を招いた「クラック」や「想定外の摩耗」は、新規開発航空機に付き物のトラブルで、今後も慎重に対応する必要があると警告している
戦闘機族のボスが決死の決意を
●海兵隊F-35のIOC期限が迫る中、また価格高騰による「死のスパイラル入り」で開発パートナー国等の脱落を避けるため、F-35推進派は生産ペースの如何なる低下にも抵抗している
●(戦闘機族のボスといわれる)空軍戦闘コマンドACC司令官のHostage大将は、「F-35計画を予定通り進めるため、最後の最後まで(to the end, to the death)まで戦いを続ける。米空軍が関与を緩めたとの認識が広がれば、計画全体が空中分解する。たった1機の削減でも米空軍の後退と見られ、同盟国等が弱気になるからだ」と語っている
●更に同大将は「F-35を守るため最後まで戦い抜く。それが十分なF-35を確保する唯一の手段だと信じているからである」と(悲壮な)決意を語っている
F-35計画室や製造企業は
●国防省F-35計画室の報道官は報告書に関し「サプライズはなく、全てF-35開発関係者が把握している問題である。指摘は全て事実であるが、各種課題への関係者の対処や取り組みを十分取り上げていない。我々は海兵隊が2015年7月にIOCを迎えることに自信を持っている」と声明を発表した
●ロッキードマーチン社は「OT&E報告書には肯定的な情報も多く含まれている。多くの兵器試験が終了していることや、ソフト開発の飛行試験が74/84進捗していることも含まれている。海兵隊が計画してる2015年の7月から12月の間でのIOC宣言に向け、同年7月までにソフトを提供する計画である」と声明を出している
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OT&Eの年次報告書に対しては、「耳の痛い関係者」から「過程にばかり注目し、結果をよく見ていない」等々の批判があります。またF-35計画室や製造企業の声明が示すように「既知の事実で対応している」との反論も可能です。
しかし、昨年後半から組織的に展開されたと見られる「F-35計画復活」キャンペーンはあまりに「露骨」で、その意図が「見え見え」だけに危機感を更に強くさせるものでした
ACC司令官が本音を漏らしているように、「米軍が関与を緩めた」と見られないよう、諸外国に逃げられないよう、必死の防戦が続いている状態が垣間見えているからです。
OT&E年次報告書をどこまで重く受け止めるかは個人の問題ですが、その規模の大きさと影響力を考えると、楽観的な見方や「パブロフの犬」的発想での安易な許容は許されないと思います。
現在の国防省の雰囲気(F-35命)の中で、この報告書を出すには勇気と覚悟と精神力が必要です。その壁を乗り越えてきた報告書を素直に読みたいとは思います
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