「退屈した兵士が逃げてしまう」
18日、米空軍下士官のトップであるJames Cody最先任軍曹が記者団に対し、アフガニスタンから帰還した米空軍兵士が米本土等での日常業務の「退屈さ」に我慢できず空軍を去って行くと警告し、米空軍上級指揮官たちに議論を促す発言をしています
この最先任軍曹(CMSAF:Chief Master Sergeant of Air-Force)は、米空軍兵士の8割以上をしめる下士官の最上位に位置する立場で、空軍トップに直接空軍全体や下士官に関わる問題について助言すると共に、いわば「鬼軍曹のトップ」として前線を支える下士官の行動を律する立場にあります
特に現場兵士の処遇や風紀に関する問題、現場兵士の「声なき声」を吸い上げる重要な役割を担っており、大将である空軍参謀総長以上に現場の下士官には影響力の強い「鬼軍曹」です
この発言は、先週行われていた空軍協会主催の航空宇宙会議で国防省や空軍高級幹部と同列の扱いで講演した後、記者団に語ったものです
同主旨の発言は、ゲーツ国防長官(当時)が陸軍若手士官の問題として約2年半前にも行っており、興味深いので併せてこちらも再度ご紹介します
James Cody米空軍最先任軍曹は記者団に
●米空軍はアフガニスタンから帰還した兵士たちに対し、根本的に異なる日常の感覚(dramatically different sense of normalcy)を作り出さなければならない
●大変過酷で厳しかったが、同時に創造的で刺激的であったアフガニスタンでの12年もの戦いと、そこでの特別な任務を終えた彼らが、本国での仕事に退屈することを防がなければならない
●挑戦や冒険の感覚が存在しなければ、退屈した兵士たちは軍を去って行く。長くは空軍に居ないだろう。
●まだアフガンの前線から全員が帰還していない段階で言うのは難しいが、何かを変えなければいけない。これは空軍指導層が議論しなければならない問題だ
●最前線の戦闘環境から戻った彼らにとっては、こちらでの日常が全く異質に見えるのだ。彼らを解放し、部隊に融合させなければいけない。
2011年2月、陸軍士官学校での講演で
(ゲーツ長官が陸軍の直面する問題を訴えた話題の講演後半部分)
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07-2
●私の最大の懸念は、陸軍の凝り固まった官僚的で制度的な人材配置と評価制度を、戦場経験豊かな若くて優れた人材を育てるべく、陸軍自らが改革していくことが出来るかにある。
●陸軍はイラクやアフガンへの部隊のローテーションに手一杯であり、若手士官も目前の任務を遂行するのみ精一杯である。
●現場で多くの部下の命を預かり自身の采配をふるった現場や多額の資金を自ら運用して現地プロジェクトに取り組んだ経験を持つ若手士官が、本国の部隊で過去のパワポスライドの微修正や事務的な恒常業務をやらされている現実は私を震撼させる。
●あるレポートによると、現場から帰国した中堅若手士官が陸軍を去る大きな原因の一つは、個人の業績を評価せず、皆を同一に評価するやり方にあるという。
●数十年間に渡り公的機関を率いた経験からすると、組織の上位2割と下位2割に注意を特に払う必要がある。上位2割には責任とチャンスを、下位2割には適切に評価され淘汰(transition out)されるよう注意しなければならない。
●大組織にはびこりがちなリスクを回避し過ちを避ける文化と戦うため、より改善改革を評価し、個人に注目する士官の評価制度が求められている。
●陸軍の文化を変えるには、「経歴管理や昇任評価基準を変えるのが一番効果的」との研究がイラク戦争経験者によって成されているし、アフガン米陸軍の指揮官からも「グーグルと人材獲得を競い合って優秀な人材を確保するには、陸軍の評価システムを改革することがmust doである」との意見が提出されている。
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軍隊という特殊な組織を維持して行くことの難しさを考えさせられます。
特にアフガンでは、軍人は兵器を用いて戦いだけでなく、アフガン社会再構築のため、村役場の職員のようにインフラの整備やコミュニティーの再生にまで関わったと言われており、極めて自主裁量度の高い任務が多かったのでしょう。
空軍兵士の場合は飛行場での勤務が多かったと思われますが、全く環境の異なるアフガンでの航空機運用や種々の作戦準備は、「前例の無い」問題との戦いの連続であったと想像できます。
空軍トップが新年のメッセージで前空軍兵士に警告した、「戦闘機操縦者文化への攻撃をやめよ」との訴えの背景には、最前線で鍛えられた兵士たちの欲求不満があるのかもしれません
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-01-04