強制削減Sequestrationを再整理

7月17日付「Defense News」は、予算の強制削減(sequestration)問題解決のため、強制削減の実施を「一時凍結」して協議の時間を作ろうとする共和党案に対し、根本的な解決を主張する民主党が妥協せず、交渉が暗礁に乗り上げていると報じています。
共和党のアヨッテ上院議員らは・
Ayotte2.jpg大統領選挙が終了するまでの間で、税制改正や支出削減に関する議会内の包括的合意を得ることは事実上困難である
●一方で、強制削減が破滅的な影響を国防産業のみ成らず米国経済に与えることは党派を問わず理解されており、現時点で来年1月2日からの強制削減発動を延期を決め、話し合いの時間を設けるべきである
●大統領選挙が終了するのを待っていては、それ以前に強制削減を見込んで企業が行う雇用や投資の縮小を避けられないまた、「死に体」政府が何の対処も取れない可能性が高い。
一方で民主党のシャヒーン上院議員は
ShaheenSen.jpg●強制削減発動が大きな問題を引き起こすことは理解しているが、荒っぽいバランスを欠く負債削減策を受け入れよと言うのなら、昨年秋の「supercommittee」で合意できていたはず。
●一時的な凍結も対処手段の一つとしてあり得るとは思うが、毎年毎年同じ問題が巡ってくるわけで、小手先だけの先延ばしでは問題は解決しない。長期的な対処を考えるべきである
米航空宇宙工業界の依頼で実施の調査レポートでは
●強制削減発動で失われる軍需産業関連雇用は約100万人
●国防産業以外の産業分野を含めた総失業者数予想は約214万人
上記のような予算の強制削減(sequestration)を巡る状況の理解を深めるため、もう一度基本に立ち返えるべく、これまでの経緯等を専門家から学びましょう
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obamaFiscalPolicy.jpg昨年4月13日、オバマ大統領が米国の財政再建に向けた決意表明スピーチを行い、国防費に対しても「ミッション、能力、役割の根本的見直し」を伴う削減を宣言しました。
それ以降、国家予算削減を巡る議論が「ねじれ米国議会」で混迷を深めつつ続いているわけですが、そんな中で飛び出したのがSequestration(以下では国防予算の「強制削減」)との言葉です。
これまでも度々、この強制削減を巡る動向を取り上げてきましたが、予算を巡る法律名や関係部署の名称を「いい加減に訳して」お伝えしてきた点を反省しております。
Tatsumi1.JPGそこで本日は、専門家の説明に謙虚に耳を傾けたいと思います。
本日引用するのは、ワシントンDCの政策シンクタンクで活動する日本人研究者による「強制削減」説明の概要です。日米同盟を研究対象にする唯一(多分)の日本人正規研究員である辰巳由紀さんの説明で勉強いたしましょう
「Wedge」のweb版(5月29日付)で辰巳さんは・・・
予算制限法(Budget Control Act)のゴタゴタ
昨年8月、オバマ政権と米議会、特に下院で多数党を占める共和党が、米国の財政再建策を巡り厳しく対立したことで、財政赤字総額の上限の引き上げが行われない状態が続き、米国政府が財政破綻する瀬戸際に立たされた。
suicide2.jpg最終的には予算制限法(Budget Control Act)という法律が成立し、財政破綻は免れたわけだが、同法では予算年度2012~2021年の10年間で米政府が総額2.1兆ドルの支出削減策を講じることを義務付けた
具体的には、9千億ドルは直ちに削減を目指すこととし、残りの1兆ドル超については今後10年間の中でどのように削減するか、上下両院から民主党、共和党夫々3名ずつ、計12人の「スーパー・コミッティー」が議論を行うこととされた。
スーパーコミッティー機能せず
●「スーパー・コミッティー」が2011年11月の感謝祭までに財政再建策を巡る合意に至らなかった場合、又は財政再建策が連邦議会本会議で否決された場合、2012年1月2日から連邦予算を一律10%カットする、という「トリガー条項」が設定された。これがsequestrationである
●ある程度予想はされていたが、昨年11月の期限までに「スーパー・コミッティ」が財政再建策を巡る合意に到達することが出来なかった。
●そして現状は、年末までに何らかの代替法案を議会が可決できない場合は、sequestrationが予算制限法の規定に基づき来年1月2日に発動されてしまう状況にある。
「合意に至らず!強制自動削減へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-11-22
Sequestration:強制削減の中身
tatsumiYCanon.jpg強制削減が発動された場合、連邦予算全体が一律10%カット、ということで、当然、国防予算も来年1月からの予算削減の対象になる。予算制限法の下、国防総省は既に支出を3500億ドル(国防省は$486 billionと言及)削減することを義務付けられている。強制削減が発動された場合これに加え、今後10年間で更に5000億ドル($500 billion)の予算削減を迫られる
●1月5日発表の新国防戦略:DSGで国防省が示している米軍再編のプランは、予算制限法が義務付けている3500億ドルの支出削減を前提に作られた計画で、その枠内で10年間かけて徐々に米軍の態勢を変容させることを目指している。
●仮に強制削減発動で追加的に10年間で5000億ドルという大規模な予算削減をしなければならなくなった場合、当然、計画は一から見直しを迫られる。また、来年1月からすぐに支出が削られてしまうことで、10年間をかけて変えていくはずだった兵力規模・構成に直ちに変更を加えることを余儀なくされる
「強制削減検討は夏から」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-03-01
「4段階で経費削減に臨む」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-20
「更なる予算削減に備えて」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-04-23
仮に強制削減回避でも・・・
●もちろん国防省はパネッタ長官を筆頭に強制削減回避に向けた働きかけに懸命だが、強制削減は回避できても、国防省はおそらく、現在想定している以上の予算の削減をすることになるだろうとする見方は、特に国防予算の分析を専門とするアナリストの間ではある程度定着しているようだ。
AdamsGordon.jpg●例えば、パネッタ国防長官がクリントン政権下で行政予算管理局(OMB)(日本で言うと財務省主計局が官邸の組織になったようなもの)長官として「コストカッター」と呼ばれた時代に、部下で国防省担当だったゴードン・アダムズ氏(写真左)は、国防予算は「削減ありき」の議論が当分は続く可能性が高く、その中で如何に米国に対するリスクを最低限に食い止めるような予算の使い方をするかが焦点になると語っている
「強制削減の影響を報告せよ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-27
「強制削減回避へレビンが動く」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-14
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先日の記事「強制削減の影響をレポートせよ」で、元OMBの予算専門家としてコメントを紹介したのがパネッタ長官の元部下ゴードン・アダムズ氏です
アダムス氏は「一律カットの程度が今後の焦点」との趣旨の発言を最近行ったようですが・・・。
国防長官の訴え
「強制削減の陰が・・・」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-17
「兵士はリスクを負い議会は逃げる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-02
「運命の傍観者たることを拒む」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-13-1
「政治家よ目をそらすな議論を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-26

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