米国の2013年度国防予算案が議会で審議され、激論の末に国防省が不要と判断した航空機や艦艇の削減を議会が認めないという異常事態が発生しています。実態は、削減されると議員地元の雇用が減る等の理由が背景で、安全保障とは別次元の政治圧力です。
そんな予算が決定されれば、限られた予算から真に必要な部分を削減せざるを得ない・・・そんな空しいやり取りが続く最近のワシントンDCです。
そんな一方で、中国との外交関係に配慮して、中国の脅威やどのような対中危機を想定しているのか明確にしないと、今後の戦略戦術や装備の議論が煮詰まらないとの意見も見られるようになっています。
岡崎久彦氏の「世界潮流を読む」や軍事サイトの関連記事を織り交ぜて。。。
米海軍大学Holmes氏は・・・
●米政府は、アジアに軸足を移すと言っているが、「中国」という言葉を使わないために、何のために何をするのかはっきりしない、正直に言った上で具体的な戦略を考えるべきだ。
●仮想敵に対して率直であることは、友人や同盟国に対して率直であると同じように重要なことだ。
●米軍の接近拒否を企む中国を打ち破ることのほかに、中国が外に出てくるのを抑える戦略も必要。例えば米軍の対艦ミサイル部隊を南西諸島に配備する案がある。
15日付「DODBuzz」は・・・
●海空戦力の「integration」推進が叫ばれ、色んな例を聞かされるが、一体どのようなシナリオを想定しているのかが判然としないため、「integration」のイメージに問題が生じている
●首都DCで中国軍の脅威を訴える人達も、彼らの考える将来危機を訴えるより、顔をしかめたり、眉を「へ」の字にして口ごもりがちだ
●珊瑚海海戦を中国海軍と戦うのか、A2ADミサイルや潜水艦で防御された排除ライン突破を考慮するのか、台湾侵攻を排除するのか、中国大陸攻撃を意図するのか・・・等々の疑問が湧いてくる
これに対し岡崎久彦氏は・・・
●外国との平和的関係を持ちながら、有事に備えるのは、古来から外交安全保障のディレンマ。
●日本の戦後の基盤的防衛力構想、つまり、ソ連脅威は絶頂だったが、仮想敵はないとしつつ一通りの武力は揃えておくという発想。また、1907年の対ドイツの英仏露三国協商も、ドイツという言葉は一言も使っていない。
●麻生氏の「自由と繁栄の弧」や、クリントンの「アジア復帰」にしても、中国包囲網に類する言葉は一切使っていない。しかし、言わんとすることは、中国の脅威に備えるということ。
一方で中国は南シナ海でより狡猾に・・・
米海軍大学のHolmesとYoshihara氏は
●先頃、フィリピンと中国が南シナ海の砂州を巡って睨み合いをした際、中国は従来のように海軍艦船を送り込まず、沿岸警備や海洋監視の船を派遣する新手の巧妙な手法をとった
●中国は、2010年にその不器用な戦術で周辺諸国を脅し、これら周辺国と米国との間に反中という共通利害を生む間違いを犯した。
●その間違いから立派に学び、「小さな警棒」外交、つまり、海軍艦船ではなく、軽武装ないし非武装の船を使って目的を達し始めた
●強く打つと相手を団結させるが、弱いと動揺・分散させる。軍艦を繰り出すと外国との係争を認めることになるが、警察力だと国内の法執行で外交とは無関係だと主張も可能
●もともと周辺国の海軍力など微力で、米国も本格的に手を出すつもりはなく、航行の自由の維持のみを主張する程度
●非軍事力を使う限り、問題をローカルな問題に留めておける。クラウゼヴィッツもきっと満足するだろう巧妙な戦術
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脅威や危機のシナリオを具体的に示せ・・・全体像が示されないと議論が出来ない・・・は「仕事したくない」や「組織防衛」の際にでる典型的な決まり文句でもあります。
Air-Sea Battleの具体化を巡る米軍内の議論で、どうも4軍種間の「縄張り争い」、「既得権維持」、「利益誘導」等の動きのために紛糾の兆しが出ているようで、上記の背景にはそんな軍種間のつばぜり合いがあるのかもしれません。
関係者のAir-Sea Battleに関する最近の公式発言が、「縄張り争い」、「既得権維持」、「利益誘導」を止めよ、とのメッセージが前面に出ている事がそれを示唆しています。
「戦わずして勝つ」の孫子の教えを引くまでもなく、狡猾さを増す中国は、民主主義の悪しき側面の突く巧みさを学び始めたようです。
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16日、ブルッキングス研究所がグリーナート海軍作戦部長とシュワルツ空軍参謀総長を迎え、Air-Sea Battle講演会を行ったようですが、「軍種間の相互運用性向上」、「装備品の重複回避」、「旧来の効果を別手法で」等々の抽象的な表現が続いたようです
両軍トップの話の概要の概要は(17日記事)
●Air-Sea Battleは、海空軍を前例のないレベルの協力共同関係にし、必要な場所へのアクセスを確保するモノである。海軍兵士と空軍兵士が縦割りで別々に思考することはもはや考えられない。
●究極のゴールは、相互運用性のある海空軍によりNIA-3D(networked, integrated attacks in-depth to disrupt, destroy, and defeat) an adversary’s A2AD capabilitiesである。
●中国など特定の国やシナリオに支配された考えではない。特定の地域に限定することは近視眼的である。将来の多様な状況を想定し、陸海空宇宙サイバーの各ドメインを交差する作戦を考えたい。
●Air-Sea Battleは、新装備の開発や調達をすることではない。現有の能力を、より良い手段や方法で最大限に活用することを確実にすることである。またAir-Sea Battleは、我々が組織し、訓練し、装備して努力する枠組みである
●勿論、長距離爆撃機やデータリンク、空中給油機、対艦対地兵器の重要性についてAir-Sea Battleは訴える。例えばデータリンクでは、潜水艦と空軍無人機の通信や、潜水艦が発射したトマホークのプログラムをF-22が空中から修正すること(昨年試験済み)、空軍E-3と海軍E-2のデータ共有等々も考えられる。
●また敵防空網の制圧に、潜水艦やEWやサイバー戦で対処することも想定できる
ただしここでも、海軍と空軍それぞれが持つ「部族意識」が変化の妨げに成る可能性があり、これを防ぐために「Air-Sea Battle」を制度化して海空軍を結びつけなければならない、と両軍トップが最後を結んでいます。
また軍事サイト記事は、「ブルッキングスのホールを満席にした聴衆は「Air-Sea Battle」に関する理解を深めて帰路に就いたが、予算削減の中、「Air-Sea Battle」が実現できるのか、どのように、との問いへの答えは見つけられなかった・・」と結んでいます。
このブルッキングスのイベントを仕切ったオハンロン上級研究員らが、来週日本で米国防政策とアジア太平洋への影響に関するセミナーを開催するそうです。
ご参加の方には、興味深い点や面白い発言がありましたらご教授いただきたくお願いする次第です。
「新国防戦略とoffshore balancing」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-27
「パネッタ長官のアジアツアー」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-22
「中国南シナ海進出を如何に防ぐ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-07
「1/2米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28
「2/2米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28-1