ハーバードで脅威の変化を

DempseyKennedyS.jpg12日、デンプシー統合参謀本部議長がハーバード大のケネディースクール(John F. Kennedy School of Government)で講演し、過去の視点から見れば暴力が減少しているように見えるが、たった一人で世界を混乱に陥れることが出来る危険な時代になりつつある、と脅威の変化を「security paradox」と言及しています。
ケネディースクールは米国社会のエリート層が集まる大学院で、将来の政府や企業を担う人材が各組織から多数派遣されています。そんな中で軍人トップが語ったのは、予算削減や中国といった特定のトピックではなく、より大きな視点での「脅威の変化」でした。
今や社会の指導者層には必須の「軍事脅威の変化」です。日本では全く浸透せずですが・・・
米軍トップが米国各分野の俊英に・・
●今日の世界は、過去のどの時代よりも「less violent but also more dangerous」である。相反する平和と潜在的紛争の共存・組み合わせが、私が「security paradox」と呼ぶ矛盾のエッセンスである
●地政学的な傾向は世界全体の安定や平和に向かっているが、破壊技術は広範に分散した敵対者達の手に入るようになった。
DempseyKenn.jpg以前は、国家安全上の脅威は国家にしか作り出せなかった。工業化の過程で世界戦争も発生したが、相互確証破壊(MAD)の恐怖が冷戦を熱戦になるのを回避してきた。
●しかし今日、貿易の国際化やIT技術により国際相互依存が進んだことにより国家間の暴力は減少してきているが、同時に21世紀型兵器が小規模グループにも入手可能となっている
●私の人生のどの時期よりも、多くの人々が米国の行動能力を害して妨げるの力を持つに至っている。これが「security paradox」である。
●以前は米国のみが煙突に精密誘導爆弾を投下することが出来たが、いまや10以上の中規模国が同等の能力を保有している。
●潜在的敵対国は、電子妨害装置に必要な部品の9割を一般市場で入手でき、我の戦場優位を確保する源泉たるネットワーク、センサー、精密誘導能力に危機をもたらしている。
サイバー攻撃も大規模な軍を必要としない急成長の脅威である一人が作成したコンピュータウイルス一つで、国家全体を混乱させることが可能になった。ミスを許容できる範囲が狭まっている、とも言える。
●軍は予算削減の中でも、このような新たな脅威と対峙しなくてはならない。取捨選択の厳しい決断を求められている。そのための新国防戦略は、小さくても機敏で先端技術を備えた軍を目指している。統合での戦力発揮もその一部である
●各軍の戦力は各地域に配備されるが、全てがネットワークで繋がれ要求に応じて行動する。国家の必要性と国家が支えられる軍の範囲のバランスをとりつつ安全保障に寄与する
USSNewYork.jpg海兵隊の最新型揚陸艦USS New Yorkは、21世紀戦略を体現する装備である。海兵隊の展開部隊を乗せ、地上、空中、兵站能力を備え、約2200人で展開可能な装備である
●またこのUSS New Yorkは、911で標的になったtwin towerの残骸の鉄骨約7トンを再利用して艦の舳先を建造した、強い思いを備えた艦艇である。
●同艦は今後、中東や地中海方面で警戒任務に就くが、同盟国等への寄港や共同訓練を通じ、実戦で鍛えられた海兵隊員と共に同盟国との信頼の向上に寄与することとなる。
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ハーバードの講義を引いてを強調すると「キザ」になりますが、「脅威の質の変化」は文民指導者層に必須の基礎知識になりつつあると思います。
パワーバランスや戦力比較が、戦闘機の数や艦艇の総トン数だけでは正確に計測することが困難になっているとも言えましょう。もっとも、デンプシー大将の講義にもあったように、国家間紛争だけでなく、名も無き小規模集団や国家丸抱えのサブ組織でも脅威ですから、新たな尺度の国家間比較表を造っても不十分だと言うことになりますが・・・
mountain.jpg更に申し上げたいのは、2つ
1つは年配の識者に時々見られる冷戦時的視点の危うさ。例えばF-35をこれだけ導入すれば、米国の戦力と合わせてバランスが保てる・・的な主張は説得力が薄れてきているという点。
2つ目は、米国による「脅威の変化」論を、「また米国が新たな兵器を同盟国に売りつけようとしている」と解釈し、戦闘機国産をぶち上げる反米国粋主義の危うさです。日本の政治への不満で熱くなり過ぎ、世界情勢を見る冷静さを失っては・・・。
「中国脅威を世界標準で」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-03
「敵に財政負担を強いる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-03-03

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