DNIが上院軍事委員会で語る

ClapperDNI.jpg1月31日、上院軍事委員会に米国情報機関のトップ4人が勢揃いし、代表して総元締めのDNI(director of national intelligence)クラッパー長官(James R. Clapper Jr)が概況説明を行っています。
また、2月2日には下院情報委員会にも同じメンバーで登場です。爆弾発言があったわけではありませんが、全体を網羅していますのでご紹介します。
特に、サイバー戦の脅威を米国防省webサイトが強調していますので、サイバーの部分は最後に集めました。
ちなみに勢揃いしたのは、DNIの他、CIAのペトレイアス長官、FBIのムエラー長官、DIAのバーガス陸軍中将です。
クラッパー長官は元空軍中将で、ゲーツ前長官の盟友です。当時国防省の情報組織管理の責任者だったクラッパーがDNI候補になった際、軍出身者の登用に反対意見もありましたが、そのバランス感覚と情報組織の垣根排除に尽力してきた姿勢を高く評価するゲーツ長官等の根回しもあり、現在のポストに就いています。
「ゲーツ長官がDNI候補者を評価」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-07
クラッパーDNI長官は・・
●情報機関が、これほど複雑で高度で困難な環境下での任務遂行を求められたことは過去にない。技術、能力、ノウハウ、通信、環境ファクターが国境を飛び越え、驚くべき速度で国家をまたぐ混乱を引き起こしている。
●全ての情報機関は、引き続き複雑な環境と戦い、組織間の融合により脅威に対処し、新技術や効率性の追求やハードワークで困難を乗り越えようとしている。しかし全ての組織が縮小する予算に苦しんでいる
PetraeusCIA.jpgビンラディンの死によりジハード運動はアイコンを失い指導者層も薄くなってきている。しかし地方に根付いたジハード運動の小組織や個人活動家が、世界のジハード活動を先導する事になろう
●WMD獲得や拡散の動きも引き続き脅威である。イランのウラン濃縮技術の進歩に関する見積もりは強固に成りつつある。仮にイランの指導者が選択すれば、兵器レベルの濃縮ウランを生産する能力がある
北朝鮮は引き続き、イランやシリアを含む数カ国へ、弾道ミサイルや関連部品を輸出している。新しい指導者に金正恩が就任後も、各情報機関では変化を確認していない
アフガン内では、ISAFが主に活動している地域ではタリバンの支配は失われつつある。しかしタリバンは引き続きパキスタン領内に聖域を保持している
●ISAFはアフガン治安機関を育成し協力することに努力を傾注しているが、アフガン内の腐敗と統治能力は、引き続きアフガン治安機関の有効性を脅かしている。
●アフガンの成功には国際社会の支援が欠かせないが、特に欧州で(米軍撤退の)2014年以降、どのように資金援助するかについて疑問が広まっている
イラクでは、米軍撤退後に散発的にテロや暴力行為が発生している。イラク政府の動きはスンニ派との緊張を高めているが、現時点ではスンニ派も政治的プロセスを踏むことが改革につながると考えているようだ。
BurgessDIA.jpg中東やアフリカ諸国では、宗教や民族分断、民主制の経験不足、弱い経済、軍や治安機関の反発、地域部族勢力による蜂起等による不安定が拡散している。また、指導者が排除されたリビア、エジプト、チュニジアのような国では、対立するグループ間の複雑な交渉等を経て、政治システムが再構築されなければならない
シリアでは、アサド政権が引き続き治安機関に反抗する市民への武力行使を命じている。この暴力事態が継続することにより、シリア国内の争乱が地域全体に危機につながる可能性もある
イエメンでは政権の委譲が続いているが、暴力事案により治安の悪化が続いており、国家の分断が現実味を帯びてきている
世界中のどこで危機が起ころうとも、その危機が水、食料、天然資源、疾病、経済危機、組織犯罪のいずれであろうとも、その影響は世界を巡り、必ずや米国に影響を及ぼす
サイバー脅威について特に強調
クラッパー長官は・・
●サイバー分野の脅威は危険水準に上昇している。新技術が開発され、対策が採られる前に使用されている状況である。国家アクターとしては、中国とロシア内の組織を特に懸念している
●非国家組織も破壊的で致死的なサイバー攻撃を可能なレベルにある。サイバー世界での大きな2つの課題は、誰が攻撃を仕掛けているかの判定と米国内の膨大な脆弱性をどう管理するかにある
●昨年リン前国防副長官が始めた、政府部門と民間企業間でのサイバー戦に関する情報の共有を促進する法律の制定を強く要望する。
●本日述べたように危機は迫っており、自らが予言した落とし穴に落ちないよう、何かをすべき時に来ている
●本年で有効期限が切れる「Foreign Intelligence Surveillance Act」の継続をお願いしたい。情報収集活動に不可欠な法律である
ムエラーFBI長官は・・
MuellerFBI.jpg20の国家機関は、大規模なネットワーク侵入事案があった際、一堂に会して状況を確認し対応を検討するテーブルに着くことになっている
しかし各州は、サイバー攻撃被害の状況についてそれぞれが異なった形式の報告を定めており、また民間企業に至っては報告の義務すらない。被害が把握できなければ、対応の採りようもない状態にある
●私は将来、サイバー脅威がテロの脅威を上回ると考えている
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サイバー脅威については、最近岡崎久彦氏が米海軍大学教授と国防大学研究者の見解を紹介し、その脅威レベルについて注意喚起しています。
David Gompert.jpgつまり、「中国が開発しているサイバー攻撃能力・衛星破壊能力は核を無能化しうるものであり、これは米国や米国の同盟国に新たな戦略的挑戦を突きつけている」と紹介しています。
http://blog.canpan.info/okazaki-inst/archive/1449
公開情報が限られる中、想像だけで脅威を煽りたくはないのですが、安価で効果的であれば誰もが使用するのは当然です。
日本も当然考慮すべきです
「前半:サイバーと宇宙演習の教訓」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-01
「後半:サイバーと宇宙演習の教訓」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-02
「誰がサイバー攻撃に対応するか」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-12
「1/2米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28
「2/2米中衝突シナリオを基礎に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-12-28-1

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