7月23日付の岡崎久彦氏のブログ「世界の論調批評」は、同22日付WSJ紙の社説を引きつつ、ここ最近2年間の中国の強硬な態度は何に由来するのかを分析しています。
岡崎氏は最終的に、2009年に米国が中国を甘やかしたことの反動、これを受け、2012年の中国党大会を前にして、中国内での権力闘争のため強硬派が力を得たこと等を軍事力の急速な近代化とからめ・・・との見方を提示しています。
まずはWSJ紙の社説の概要を・・・
●沿海の航行を妨害するなど、最近の中国の強硬な行動に、東南アジア諸国は脅威を感じ始めている。しかし、これは周辺諸国を米国の方へと追いやるだけで、中国にとってけっして得策ではない。
●また、中国が米国と対決できるだけの軍事力を蓄積するにはまだ何年もかかり、その間は中国も平和的に台頭する必要があるはず。にも関わらず、挑発が続くのはなぜか。おそらくそれは、①過去の主張のからみ、②国内政治の影響、そして③中国の戦略的文化から来ている
●中国の行動の特徴は、論理の一貫性や相互主義を認めないことだ。自国の排他的経済水域に他国の艦船が入るのは拒否する一方、自分は日本の排他的経済水域に入っていく
●また、孫子の兵法以来の人の意表を突くという戦略なのか、朝鮮、チベット、インド、ヴェトナムといずれも予告なしで戦争を始めている。漁船に偽装する方法も使う。そのため、周辺諸国は、中国がいつどういう形で出て来るのか予想がつかない。
●さらに、超大国の引き揚げの機を捉えるところがある。1974年に西沙群島に出て来たのは、米軍のべトナム撤兵の時であり、南沙群島に出て来たのは、ソ連のカムラン湾引き揚げの後だった。
●東南アジア諸国はこうした中国のことをよく知っている。だから中国が何を言おうと、クリントン国務長官が個別の接触で東南アジア諸国から受け取るのは、米国は東アジアとの外交的、軍事的結びつきを強めて欲しいというメッセージだろう
岡崎久彦氏の視点と見方・・・
●ASEAN地域フォーラムでは、中国はある程度は柔軟姿勢を示すだろうと一般に予想されていますが、最近の大きな流れとしてこの社説は正しいと思われます。2010年以来中国の態度が挑発的になって来たことは事実です。
●中国の態度が硬化した理由としては、2009年に米国が中国を甘やかしたことの反動で、2012年の党大会を前にして中国国内の権力闘争の中でタカ派の強攻策の有利に導いた(中国軍事力の急激な成長を背景として)、ということが一番考えられるように思います。
●2009年11月のオバマの初訪中のために、中国の機嫌を損ねないよう汲々としていた米国は、ダライ・ラマのワシントン訪問を空振りに終わらせ、台湾への武器売却を延期、新疆、チベットの弾圧にもはかばかしい抗議はせず、北京オリンピックの開催を祝福しました。
●推測ですが、おそらくは、「米国は出れば引っ込む」と中国に思わせてしまったのではないかと思われます。勇気付けられた中国のタカ派は発言力を増し、2012年の党大会を控えての権力闘争の中で、それが元に戻らなくなり、南シナ海などでの中国の行動にも反映されているということでしょう。
●仮にそうならば、2012年の党大会の後、あるいは、その前でも権力闘争が一段落すれば、中国がまた微笑外交に戻る可能性もあるということになります。強硬外交よりも、微笑外交の方が扱いが難しいのは、外交の習いであり、その時は西側として十分注意してかかる必要があります。
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一歩引いて、長期的視点から物事を見ていくことも必要かもしれません。
「強硬外交よりも、微笑外交の方が扱いが難しいのは、外交の習い・・・」、なるほど、なるほど・・日本はいつも微笑みのようですが、これは違うか。
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追加:8月16日付の岡崎氏のブログでは・・・
●米国凋落の印象が、来年の党大会を控えて、中国内のタカ派とハト派の権力闘争に影響を与える、というリーバソールの指摘は鋭いと言えます。
●中国は、昨年1年の強硬姿勢とそれがもたらした外交関係悪化を反省して、穏健姿勢に転じるという見通しが、今年の初めから噂されていましたが、その後もその強硬姿勢は変わっていません。
●おそらくは党大会を控えて、タカ派が一度得た優位を失うつもりはない、ということではないかと推察されます。
●そうした中国の内政が機微な時期に、米国に財政経済危機が訪れ、米国が弱みをさらけ出している、というタイミングはたしかに憂慮すべきことだと言えます。
「米国の姿勢シャングリラ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-01
「フロノイのアジア政策授業」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-04-30
「米中戦略経済対話と台湾」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-11
「1月ゲーツ長官の中国訪問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-01-09-1
「米中対決10年シャングリラ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-10
「徐才厚のCSIS講演」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2009-11-09