NATOの2極化を警告する(最後の政策スピーチ)

「今からでも決して遅くない。欧州諸国は国防機関のあり方と同盟関係を正常に戻すことが出来るはずだ。これは大西洋の向こうから要求したり強制することではない。」
gatesNato.jpg10日、NATO国防総会議出席のためにブラッセル訪問中のゲーツ長官は、「国防長官としての最後の政策スピーチ」としてNATOの現状や課題について当地の有識者に向けて語りました。
中身は厳しく、NATOメンバーは安全保障を生産提供する国とそれを消費する国に分かれつつある、とゲーツ長官の懸念していたことが現実になりつつあり、厳しい財政状況にあっても国防投資の優先順位や組織の効率化を進め能力を維持改善すべきと警告しています。
最後の政策スピーチに相応しい強烈な内容です。トランスクリプト国防省HP記事
「two-tiered alliance」化は受け入れがたい。
gatesNato11-4.jpg●私はかねてより、NATOが2層化、つまり人道支援や平和維持や話し合いなど「ソフト」な役割に特化するメンバーと、「ハード」な戦闘任務に従事するメンバーの2層化を懸念してきた。
●また、NATOメンバーの利益のみを享受し本部施設を使用してリスクと負担を追わないメンバーと、同盟の経費と負担を引きうける国の2極化を懸念してきた。
●これらの懸念は、もはや想定上の懸念ではなくなりつつある。このような状態は受け入れがたい。
アフガンへの協力が不十分
●間もなくオバマ大統領が、7月開始のアフガン米兵力の移管について発表する。確認するが、どのような内容であっても出口に急ぐモノではない。アフガン治安機関へ任務を移管した部隊も、多くは他の重要な地域に再配置される。緊要な夏の戦闘シーズンに、大部分の増強兵力を残配置する。
gatesNato2.jpg●NATOは、それぞれの国の勝手な方針により本国に兵士を帰還させる国を許容できない。これまで多くの犠牲を払って確保したモノや他のNATO諸国を危険にさらすことになるからだ。
●アフガンでの戦いは「ともに出陣し、ともに撤退しよう」である。各国の兵士を名誉を持って迎え、高く評価することが求められている。NATO諸国が直面する21世紀最初の試験である。
●米国以外で約200万人存在するNATO加盟国の兵士が、僅か2万から4万人の展開兵士を支えるのに四苦八苦している。最前線の兵士でなく、多くの支援部門、ヘリ、輸送機、ISRや整備支援も含めである。
リビア作戦でのNATOの惨状
●NATOのリビア作戦は、より深刻な戦力不足状態に直面している。この作戦は欧州の裏庭で行われ、欧州の利害に直結し、しかも地上部隊を必要としない海軍と空軍の作戦にもかかわらず
gatesNato11.jpg●ほぼ全ての国が国連決議に賛成した。しかし1/3しか実作戦に参加していない。率直に言えば、参加したくないのでなく参加できる能力がない。イタリアの航空作戦センターは毎日300ソーティーを運用する機能があるが、僅か150行うのに苦労している。それも米軍が多数の要員を「緊急」支援してである。本当の危機に際して当てに出来ない支援である。ISRの不足も甚だしい。
●多くの先進国を含む最強の同盟が、貧しい軍事国家に対する僅か11週間の作戦で弾薬不足に陥っている。またも米国への支援要請だ。これはアフガンでの最初のNATO地上作戦が実施されている中でも10年間で15%も国防費を削減した結果である。
努力の余地があるはずだ
●本日、NATO加盟国28カ国の中で、僅か5カ国、米、英、仏、ギリシャ、アルバニアのみがGDP2%以上の国防支出を誓った。この国数は増えないだろう。この情勢で仕方ないのであっても、限られた資源を如何に有効活用するかに十分努力が成される余地があるのでは。
nato.jpg●厳しい財政の中でも努力している例もある。今回のリビア作戦でノルウェーとデンマークは全体の1/3の目標を12%のソーティーで攻撃してくれた。彼らは厳しい中でも訓練や装備に資源を配分し、その役割を果たしてくれた。
●しかし例外もある。多くの加盟国が彼らの優先順位や資源配分を変えようしていない。米国以外の加盟国は年間25兆円以上の軍事費を消費しているが、より考慮すればかなりの有効な能力獲得が出来るはずだ。真に時代求める必要な国防支出を再考すべきである。
今からでも遅くない
冷戦最盛期、米国はNATO支出の約50%を担った。しかし、ベルリンの壁崩壊後その割合は増加を続け、今や75%以上を占めている。
欧州諸国の皆さん、今からでも決して遅くない。国防機関のあり方と同盟との関係を正常に戻すことが出来るはずだ。これは大西洋の向こうから要求したり強制することではない
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アジア政策に関しては「忍耐」が必要だと同行記者に語っていたゲーツ長官ですが、さすがにNATO諸国には強烈です。
長いスピーチだったので十分雰囲気を伝えられたか自身がありませんが、NATOの惨状を知る意味で、またゲーツ長官の強烈な表現振りを確認する意味で、ぜひ原文の確認お奨めします。
これが最後の政策スピーチですか・・(遠目涙再び)。退任式でのスピーチ(たぶん)を最後の楽しみに・・・
NATO改革関連の過去記事
「NATOとのサイバー協力強化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-01-26
「NATOリスボン会議」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-11-18
「NATO改革をPush」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-14
「NATO改革にも挑む」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-12
退任間際・・怒濤の連続スピーチ
「政治家よ目をそらすな議論を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-26
「米国がやらねば他はやらぬ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-24-1
「米国の将来を悲観するな」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-09
「警告する、NATOの2極化を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-12
「アジア各国へ:最後のシャングリラ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-01
「リーダーたる者は:最後の卒業式」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-28
「空軍士官候補生へ最終講義」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07
「前:陸軍士官候補生へ最終講義」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07-1
「後:陸軍士官候補生へ最終講義」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07-2
「4段階で経費削減に臨む」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-20
「更なる予算削減に備えて」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-04-23
「ゲーツ長官引用の名言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-18-1

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