アラブに民主主義がなぜ少ない

arab2.jpg1月23日付のブログ「国際情報センター」「アラブ諸国に民主主義国はなぜ少ないのか。(雑感)」との記事が掲載されています。
ブログの主は、世界の外交官や研究者が注目するロシア語外交官、外務省国際情報局長、内閣府PKO事務局長イスラエル大使朝鮮問題担当大使、対テロ担当大使等々を歴任された茂田宏氏ですが、表題の難題にご自身の仮説を披露されています。
大変勉強になり、引用自由とのことですのでほぼそのままご紹介します。
前振り(英エコノミスト誌の社説)
●1月22日-28日号の同誌は「ジャスミン革命のにおいを広げさせろ。チュニジアが他のアラブ諸国が見習う民主主義の見本となったら、なんと素晴らしいことか」との社説を掲載している。
●社説はまた、アラブ世界が民主主義の観点で最も遅れているのは大きな謎だとしている。また、アラブの国で曲がりなりにも民主的なのはレバノン、パレスチナ、イラクだけであるが、それぞれ欠陥があると指摘し、一方で民主的なトルコやインドネシアのことを例に、イスラム教が理由とは思われないと書いている
以下、茂田宏氏の仮説(過去にこの問題を調べ、考えたことがあるそうです)
平等の考え方
arab3.jpgイスラム教が民主主義の成立を阻害すると言う説は成り立たず、どちらかというと、民主主義を推進する方向性を持つ。
●フランス革命のスローガンは「自由、平等、博愛」であるが、イスラム教は人間の平等を強調するし、博愛も強調する。イスラムでは、人は神の前で平等である。
●ヒンズー教のカースト制には平等観念はなく、儒教の5倫で平等なのは朋友関係のみである。イスラムの方がずっと民主主義に親和的である。博愛はすべての宗教にある。
自由のとらえ方
●自由については、イスラムはあまり自由を尊重しないと言われる。アラブ人にアブドラという名前が多いが、これはアブド(奴隷)とアラー(神)の合わさったものであり、イスラム教徒は何よりも神の僕であることに価値を置いている。
●人間理性を尊重し、自由をそれで根拠づけることにはならないと言う意味で、フランス革命のような思想はないが、イスラムの神に従うという宗教的価値と、政治の場における自由への欲求とが完全に衝突を起こすわけでもない。これは米のキリスト教原理主義者を見れば、そうならないことが分かる。
経済や教育レベルとの関係
●国の経済発展レベルが低く、一人当たりの国民所得が低く、教育水準も低い場合、民主主義はなかなか根付かない。中産階級の成立と民主主義の成立には、相関関係がある。アラブ諸国の多くでは、経済発展のレベルが低いが故に、民主主義が成立していない国がある
●しかしアラブの中には、一人当たり国民所得が相当高い国も多い。こういう国でなぜ民主主義が根付かないのか。だいたい一人当たり国民所得が4千ドルを超えると民主化すると言う説があるが、アラブ諸国の中には一人当たり1万ドル、2万ドルの国がある。
arab4.jpgこれを説明する説として、レンティア(地代・ほどこし)国家論というのがある。アラブ諸国の中には石油やガスの収入が膨大で一人当たり所得が多くなっている国が結構ある。こういう国では、国民は税金を納めて国を維持するわけではなく、国家から地代収入を分けてもらうとの関係にある。
●「代表なくして課税なし」とのスローガンがあるが、「課税がないから代表もなし」という逆の状況がクエートとサウジなどではあるのではないか。これが民主主義の成立を妨げるとの説である。私はこの説に一理ありと考えている。なおロシアも地代国家の面が強いし、民主化の程度も低い
反植民地闘争の名残
●アラブ諸国は欧州の植民地であった過去があり、反植民地闘争があった。そのなかでレーニン主義的な組織論,闘争論が受け入れられた。たとえばイラク、シリヤのバース党のイデオロギーにはレーニン主義の影響が色濃く見られる。このレーニン主義の考え方は民主主義とは相いれない
これらの要因、特にレーニン主義以外の点が合わさってアラブ諸国は民主化しないのではないか
(以上が茂田氏のブログ記事概要)
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arab.jpgアラブ諸国にはいろいろあり、産油国で成人国民の4割が糖尿病などという金満産油国はレンティア論で、資源が無く政治的混乱を避けるため先進国に生かされている国は自由論で、自然環境が厳しすぎる国で資源がないところは経済教育論で・・・それぞれ分けて考えても理解しやすいのでは・・とも思います。

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