昨日に引き続き、「平成22年度版 日本の防衛」(通称:防衛白書)の米国国防政策に関する記述を吟味して参ります。白書は、防衛省のWebサイトに見やすい形で公開されていますので、内容はそちらをご覧下さい。
http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2010/w2010_00.html
繰り返しになりますが、本ブログでは、「激変」・「大変革」の時期を迎えつつある米国防政策を、ゲーツ長官の発言や考え方を中心にかなり詳細にフォローしていますが、その観点からすると22年度版・防衛白書の「米国政策に関する記述」は「まやかし」以外の何ものでもありません。
「ゲーツ改革のまとめ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-17
「ゲーツ長官が国防省等にも宣戦」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-09
同盟国である米国の国防政策の大転換を巧みにカモフラージュし、自らは世界情勢から目を背けて「その場しのぎ」・・あまりにも情けないです(遠目ため息涙・・・) まぁ・・今に始まった事ではないにしても・・。
昨日は「Air-Sea Battleの記述無し」及び「日本への負担増要求の記述無し」の2点に触れましたが、本日は後半の3点に参ります。
●軍需産業改革や技術開発改革を無視
米国が同盟国やパートナー国との協力関係強化を目指している点は差し障りなく触れられていますが、米国が「軍需産業との関係見直し」を図って財政の健全化を目指し、かつ世界の企業にも門戸を開こうとしているQDRの記述を無視しています。
また技術開発に関しても、官僚的な手続きを見直して国際共同開発が円滑に進められるような体制づくりに米国が取り組むことをQDRが宣言していることを無視しています。
「武器輸出・開発の方針転換」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-22
「武器輸出管理の改善とQDR」→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-09
「軍需産業基盤の強化」」→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-08
以前と比べて若干元気がないとはいえ、世界に冠たる技術立国日本のチャンスを意味するこれら米国防政策の変化に目を背ける姿勢は、みずから「チャンスをどぶに捨てる」がごときの行状です。
「防衛力と安全保障に関する懇談会」の提案にもあった、武器輸出3原則の見直しと日本の防衛産業の建て直しのラストチャンスにもかかわらず・・・。誰が反対してるんだ!!
●ミサイル防衛見直し関連記述が不十分
QDRと同時に発表された初めてのBMDR(ミサイル防衛見直し)に関する記述は、「目くらまし作戦」の典型です。Holylandの読むところBMDRの意味するところは・・・、
・お金がないから、イランや北朝鮮の米本土攻撃に対応するミサイル防衛網開発は一時中断(両国の弾道ミサイル能力は当面米本土の脅威ではないとの判断)
・アフガン作戦遂行には補給ルート確保が鍵であり、ロシアの協力が必要だからロシアの嫌がる東欧へのMD配備は断念
・金食い虫のBMDは、オバマ大統領の強い指示で有効性や実効性を十分検証してからでないと配備や本格生産しない、です。
・検証や開発に当たっては、日本などの同盟国にたっぷり負担を共有してもらう。
Air-Sea Battleの流れから行くと、今後日本に対するミサイル防衛力強化と開発経費拠出への圧力がますます強まると予想される中、上記のような視点での白書記述が国民のためには必要でしょう。
「BMDRの6つの優先事項」→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-02-03
●核態勢見直しとセットのPGSに関する記述がない
日本で核兵器の話になると、広島・長崎市長と被爆者団体しかメディアでの発言権が無いようですが、今回のNPR(核態勢見直し)の重要パーツである非核兵器(Prompt Global Strike構想や Conventional Strike Missile)による代替に関する概念紹介が全くなく、NPRに対する議論をオバマ大統領の「プラハ演説」万歳で終わらせようとしているのでは、と勘ぐってしまいます。
「核抑止の代替?CSMについて」→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-25
「PGSのHTV-2試験失敗」→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-27
NPR発表後から、ゲーツ国防長官やマレン統合参謀本部議長が議会やプレス向けに行った証言でも、例えば「ロシアの動向を最後まで見極めてから最後に削減する」とか「生物兵器の動向によっては見直しの可能性がある」等々の、オバマ大統領と微妙に温度差のある「信頼できる実務家」の発言も踏まえないと、ますます国民の「平和ぼけ」にしてしまいます。
「ロシアの動きを見極めて」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-22
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そのほか・・・
中国の軍事力に関する記述も、従来の記述の流れを踏襲しつつ、新たな出来事で「彩る」単発刺激誘導形式になっています。いわば従来型防衛力整備のための脅威をアピールするスタイルです。(左は米国防省「中国の軍事力 2010」より)
日本独自の確固たる防衛政策に基づいた記述ならともかく、日米同盟を機軸とするつもりなら、「戦闘機対戦闘機、艦艇対艦艇の戦いに目を奪われてはいけない」はずです。ハイエンドで非対称な脅威対象として中国を見始めている米国の視点をもう少し組み入れ、●●自衛隊大幅削減につながるような書きぶりにしていただきたいモノです。
Webで公開された白書を特急斜め読みして書きましたので、多少の誤解があるかもしれませんが、全体の印象はこんなモンでした。
金曜日に公開し、話題になるのを避けたような扱いにも大きな疑問を感じるところです。でるのはため息ばかりなり・・(遠目ため息・・)
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