CSBAと「Joint Air-Sea Battle Concept」の関連記事一覧はこちら
引き続き、シンクタンクCSBAによる対中国軍事対処構想レポート「AirSea Battle: A Point of Departure Operational Concept」を読んで参ります。
・・・とは言いつつも、ゲーツ長官はこのレポートを読んでいる間にも積極的に活動中ですので、2件フォーローしておきます。
●5月20日の記者会見(写真下)で・・・
「私が国防長官である間は毎日取り組む。私の出来ることは全て実行する」と、8日のアイゼンハワー図書館での国防省改革演説(記事「国防省と議会にも宣戦布告」及び「(追加)アイゼンハワー・ライブラリ演説」)のフォローをしています。
「今週、国防省内の各部署のリーダーと会い、改革への計画をたてるよう指示した。議会、シンクタンク、学者の皆さんにも国防省業務改革への提案をお願いするつもりだ」と不退転の決意を表明しています。
また「この戦時に国防予算の削減を要望しているのではない。無駄を削って、必要な分野に振り向けるのである。」とし「戦力組織組成、軍人ポスト、将来の戦闘能力が検討の対象になる」と述べ、CSBAレポートや最近の発言に見られる戦いの変化を見据え、従来の業務要領や組織、ポストに大なたを振るう覚悟を再表明しました。
●5月21日:情報活動への長年の貢献を表彰されて・・・
最近の無人機による情報収集技術の進歩を讃え、更にCIA長官時にイスラエル軍を習って米空軍へ無人機開発に投資するよう働きかけたが「無駄だった」との昔話(皮肉)で笑いを誘い、そして・・・
「(戦術・作戦レベルでの技術的進歩にもかかわらず、)依然として私が懸念しているのは、政治や戦略レベルでの情報の質である。他国の政府が何を行うことが出来、そして更に重要な、何を意図しているのか、を知ることが米国インティジェンス社会にとって依然として難しい課題である。そして将来もそうだろう。」・・・・・・
CSBAレポートの「読み」に戻ります。
(その5)までは、先を急いでレポートの中心的な中身と結論的な部分を、サマリーと3章・4章から紹介(全5章編制)しましたが、もう少し前置き的な部分を見ておくべきとの反省もあり、2章「A2ADにより生ずる作戦上の問題」に戻ります。
過去紹介した内容との重複がありますが・・・本日も自問自答の設問形式で概要を書き出してみました。(写真は上院でのレポート発表会見)
Q1 過去60年間の米軍のパワープロジェクション環境と何が異なり、どんな影響があるか?
A1 まず米軍のこれまでのパワープロジェクション作戦のイメージは・・・
1 危機に際して、迅速に実質必要な戦力を前方展開基地に展開させる
2 同時に後方に兵站補給のためのロジの保護区(攻撃を受けない地域)を設置
3 米軍が選択する時と場所で戦闘行動開始する。敵の行動を捕捉し、敵に我と同じ行動をさせない。
4 複雑な戦場ネットワークを立ち上げ、衛星の回線周波数を買い占め、大規模で継続的な航空活動遂行する。
A2 中国のA2AD能力は、米軍が当然のように享受してきたA1の前提に挑戦する。中国の先制攻撃があった場合、A1が想定している前方エリアでの物理的保護区は無く、サイバー・宇宙・電磁パルスなどヴァーチャルな世界でも保護区は期待できない。そして、作戦地域へのアクセスを拒否され、作戦の主導権を失うことになる。
A3 結果的に米軍は、滑走路や燃料不足等から大幅に少ない飛行数、劇的に不足する海上ISRや対潜水艦情報、空中給油機への過度の負担、作戦遂行物資の不足、長期を要する艦艇・潜水艦の再発信準備等の問題に直面する。
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Q2 重要な潜水艦作戦を巡る状況は?
A1 中国の対潜水艦能力は依然として初歩的なレベルである。米海軍の潜水艦は発見されにくい。しかし逆に、中国の潜水艦は次第に探知が難しくなっている。特に第一列島線内は非常にノイズが高く潜水艦の発見が困難なエリアである。
A2 近年、環境問題や海底資源への関心の高まりから、(特に第一列島線内は)各種の科学的調査が行われており、関連データが中国の対潜水艦作戦に利用されている可能性がある。更に、種々のセンサーが大陸から直接電力や通信回線を引いて使用できるため、米に比して有利である。中国による音響妨害も、米の従来からの対潜水艦作戦をより困難にする。
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Q3 指揮統制(C2)やISR機能に関する状況や課題は?
A1 米側は、非常に広い周波数帯域を使用しての各種機能連接によりC2、目標探知、精密攻撃や戦果判定に依存しすぎている。そしてこれらを宇宙アセットに大きく頼っている。中国は低軌道衛星の無効化力を得つつある。
A2 米国が同様に宇宙アセット無効化能力を得たとしても、中国は地下に埋めた光ファイバー網で国内の緊要な地域を連接しており、米側より有利である。
A3 サイバー戦に関して端的に言えば、米中双方が同等の能力を持って戦った場合、ネットワークへの依存度が高い米側が遙かにダメージを受け、C2やISRに損害を被る。例えば、米軍の兵站補給部門は商用のネットワークに頼っており大きな弱点となっている。まとめれば、これまで行動の自由を謳歌し、敵の攻撃を意識しなかった分野で敵の挑戦を受けることになったのである。
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Q4 日本の脆弱性についての書きぶりは?
A1 日本の防衛は、戦略的かつ作戦的にも避けられない第1級の課題である。自衛隊の保有するかなりの航空・海上戦力は、米軍戦力を増強して一部の任務、対潜水艦作戦、海面ISR、海面攻撃、ミサイル防衛が実施できる。多くの西日本の自衛隊基地がそうであるように、嘉手納、岩国、佐世保等の基地は全て中国に取って容易な攻撃範囲内にある。
(これらの表現を受け、シリーズ最初の記事「CSBA中国対処構想」で説明した日本の基地施設の地下化、山岳部への移動や地下化が日本に提示されている)
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Q5 上記状況へのレポート著者の嘆きは・・・?
A1 過去20年間ほど享受してきた我に優位な環境が悪化し続けているのに、国防省の現在の計画では、依然として足の短い攻撃システムを購入し、無防備な衛星に依存し、ネットに依存してそれが被害を受けた状況での訓練が足りない。必要な分野である突破型長期在空ISR攻撃能力や空中給油、前方基地の抗たん性強化、戦闘補給部隊、それにDEW(エネルギー指向兵器)への投資が不十分である。
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長々と書き殴って参りました・・・。同様の表現や内容が何度も繰り返しあらわれてきたことを感じるところ、そろそろこの辺りで、一端この話題への一点集中から離れることといたします。(すぐ、追加捕捉説明を試みるかもしれませんが・・・)
次の個人的な注目は、6月4~6日に開催されるシャングリラ・ダイアログです。
昨年のIISS主催のこの集まりで、ゲーツ長官は日本に対し「日本は、自ら防衛任務を担えるよう取り組んでいる。その結果として、米国と両国はパトロンではなく、パートナーとしてより適当であるように調整を続けてきた。しかし、依然として、パートナーとして完全に準備し、全ての、くり返すが、同盟国としての全ての義務を果たすことができるパートナーでなければならない。」と釘を刺しました。今年はどのようなアプローチでしょうか?
心配なのは、中東でのマナマ・ダイアログに欠席だったので、もしかしたらウィラード太平洋軍司令官のみ出席かもしれませんが・・・
(追伸!!) 25日の記者会見で北澤防衛大臣が、シャングリラ・ダイアログの際に、昨年と同様に日米間国防相会談をやると発表しています。ゲーツ長官がシンガポールにお出ましです。楽しみ!!
「アジア安全保障会議 ゲーツ長官発言」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2009-06-01
「CSBA中国対処構想」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18
「(しつこく最後)CSBA中国対処構想」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-30
「Air-Sea Battle Conceptの状況」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-23-1
「嘉手納から有事早々撤退?」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-13
「米の対中国新作戦は「Joint Air-Sea Battle」」)
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-02-05
「Joint Air-Sea Battle Conceptは平成の黒船」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-02-09
「どんな兵器を:Anti-Access環境対応」
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-04
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