3月18日、米クレイ数学研究所は、数学上の未解決問題だった「ポアンカレ予想」を、ロシア人数学者グリゴリー・ペレルマン氏(43)が証明したことを認定する旨を発表した。
→ http://www.claymath.org/poincare/index.html
同研究所は2000年、ポアンカレ予想など7つの難題を「ミレニアム問題」として発表、各問題に約9千万円の賞金をかけているが、同氏は賞に関心を示さぬ孤高の天才として知られ、「受賞を承諾するかは不明」)という。
クレイ研究所のカールソン所長は、「ほぼ1世紀にわたり続いたポアンカレ予想の解法の探求は、ペレリマン氏の証明により終了した。数学史上、著しい進歩で、長く人々の記憶にとどまるだろう」と述べています。(写真はポアンカレ)
(以下の記事は再録ですが、ペレルマン氏の快挙を記念して)
文藝春秋から11月中旬に発刊された新刊書「完全なる証明」約1700円を読みました。文藝春秋の新刊書の中では現在No1ベストセラーの模様です。
十代半ばまで旧ソ連の数学者育成システムの中で育ったユダヤ人の筆者が、関係者の証言によって綴ったノンフィクションです。
陰鬱な雰囲気が漂う中にも、真理の探究を目指す数学者の純粋な情熱や厳しい環境の中で変人といわれながらも紙と鉛筆で勝負する一風変わった世界が非常に興味深いです。
文系のHolylandですが、数学の知識がなくても十分楽しめました。話の中心は、学問の自由までもが犯され外界と遮断されていた旧ソ連社会の中で人間の情熱のみがソ連数学界を支えリードしていた様子や、ペレルマンの論文が発表されて以降の人間模様ですので心配ありません。 訳者の青木さん自身が「ポアンカレ予想」自体についてはよくわからないとおっしゃってるぐらいですから。
唯一いやな気分になる所は、人の成果を盗み取ろうとする中国人の存在ですが、それも半年ほどで化けの皮がはがされ痛快です。
結構ボリュームたっぷりの中身は・・・
●米国のクレイ研究所が100万ドルの報奨金をかけた数学上の難問7つの中の一つ、100年前に提示されて未解決だった「ポアンカレ予想」。
●この証明を完成させたロシア系ユダヤ人数学者ペレルマンの生い立ち。
●抑圧された旧ソ連社会の中にあって、更に輪を掛けて厳しいユダヤ人差別の中でペレルマン育成に関わったロシア数学界の人々。
●特異な形で発表された論文が呼び起こす波紋。
●長年取り組んできた課題の証明が思いも寄らぬ方法でかつ周辺の問題をも含めて解決されたことを複雑な思いで見つめる学会の数学者。
●証明の功績を自分にも引き寄せて功名を得ようとする中国人の数学界重鎮とその弟子。
●何とか報奨金を受け取って、研究費の足しにしてほしいと努力するクレイ研究所所長。
●外界の騒ぎに嫌気がさし、次第に友人や恩師との接触を絶ってゆくペレルマン
●最後にジャーナリストとして接触した雑誌「ニューヨーカー」記者のエピソード 等々です。
翻訳が素晴らしく、全く違和感がありません。文芸春秋HPが「日本数学会出版賞を受賞した青木薫さんが、天才の孤独を美しい日本語の調べにのせて伝えてます」と自信たっぷりに紹介するだけのことはあります。
更に、分子生物学者の福岡伸一教授が読売新聞紙上で「数学を全く知らずとも、数学という営みの孤独と美しさを感じうる稀有(けう)の物語。今年私が読んだ科学翻訳書のベストワン」と激賞する作品です。年末年始のテレビに飽きた頭にしみます。
写真下はペレルマンの故郷であり、現在も彼が生活するサンクトペテルブルグ
(関連記事) NHKスペシャル「リーマン予想」に驚愕
→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2009-11-16
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